発達障害がある場合、小学校への就学先は親にとっても、子どもにとっても大きな選択になります。小学校だけでなく、中学、高校と様々な選択がある中で、特別支援学校への進学も1つの選択肢にあがるでしょう。では、発達障害をもつ子どもは特別支援学校へ進学することは出来るのでしょうか?また、特別支援学校についても詳しく解説します。
目次
1、特別支援学校は幼稚園から高等部まで設置されている
発達障害を持つ子どもの場合、小学校以降は就学先に様々な選択肢があります。『普通学級』『通級指導教室』『特別支援学級』『特別支援学校』という4つの就学先があります。それぞれに特徴があり、発達障害をはじめ様々な障害を持つ子どもにとって、最適な就学先を選ぶことが大切です。
◆就学先の種類
学級 | 特徴 |
普通学級 | 一般的な大人数の児童と一緒に学習や生活を行う学級 |
通級指導教室 | 普通学級に在籍していながら週に数時間、 通級指導教室へ通い困難の克服や改善を行う |
特別支援学級 | 特別支援学級に在籍し、学習面や生活面での 苦手な部分に対しての克服や改善を行う |
特別支援学校 | 特別支援学校へ進学し、苦手な部分に対しての克服や改善を行い自立を目指す |
このように、それぞれの就学先で障害がある子どもへの最適な方法での指導や支援が行われます。『普通学級』『通級指導教室』『特別支援学級』は一般的な地域の小学校に設置されていますが、『特別支援学校』の場合は独立した学校になります。では、『特別支援学校』とはどのような学校なのでしょうか?
特別支援学校とは
『特別支援学校』とは、障害を持っている子どもが通う学校の総称を指します。幼稚部、小学部、中学部、高等部の4つが設置されており、『特別支援学校』は幼稚園から高等学校までに準じた教育を行っていくことに加えて、その子の障害の特性や、困難に感じることに対して最適な支援や指導を受けることが出来ます。
『特別支援学校』を学校教育法第72条では
特別支援学校は、視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を?含む。以下同じ。)に対して、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施すとともに、障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授けることを目的とする。
(引用:文部科学省「学校教育法第72条」)
と目的を定めています。つまり、『特別支援学校』では、少人数で指導や支援を行うことが出来ますので、地域の小学校では受けることが出来ない配慮や、生活面、学習面での克服や改善を目指し、将来自立した生活を送ることを目標に支援していくことが出来ます。
元々は視覚障害者が通う『盲学校』、聴覚障害者が通う『ろう学校』、知的障害者や身体障害者が通う『養護学校』とそれぞれの学校種として法令に定められていましたが、2007年から法改正により同一の学校種『特別支援学校』として統合されました。以前は、視覚障害者は『盲学校』というように、1つの障害に対して学校がきめられていましたが、複数の障害を抱えている子どもの支援や指導を柔軟に行うことが出来ることや、地域の小学校や中学校と一緒に交流を持ちセンター的機能を担うことが出来るように改正されました。
『特別支援学校』では、地域の小学校のように大勢の中で学習することはありませんが、それぞれの子どもに合わせた学習を行うことが出来ます。『特別支援学校』では、基本は特別支援教育の理念に則って行われます。
2、発達障害の子どもは特別支援学校へ進学出来る?支援の対象児とは?
それぞれが持つ障害の特性によって、異なるニーズに細かく支援や指導を行うことが出来る『特別支援学校』ですが、『特別支援学校』に就学する際に対象となる障害の程度としては以下になります。
障害種 | 内容 |
視覚障害 | 両目の視力が0.3未満、視力以外の視機能障害が高度の方のうち 拡大鏡の使用によっても、通常の文字や図形などの視覚による認識が不可能または著しく困難な程度の方 |
聴覚障害 | 両耳の聴力レベルがおおむね60デシベル以上の方のうち、 補聴器等の使用によっても通常の話し声を解することが難しい、もしくは不可能な程度の方 |
知的障害 | ①知的障害の遅滞があり、他人との意思疎通が困難で日常生活を 営むのに頻繁に援助を必要とする程度の方。 ②知的発達の遅滞の程度が①に掲げる程度に達しない方のうち、社会生活への適応が著しく困難な方。 |
肢体不自由 | ①肢体不自由の状態が、補装具の使用によっても歩行、筆記などの 医的日常生活における基本的な動作が不可能または困難な程度 の方 ②肢体不自由の状態が、①に掲げる程度に達しない方のうち、常時 の医的観察指導を必要とする程度の方 |
病弱 | ①慢性的の呼吸器疾患、腎臓疾患および神経疾患、悪性新生物そ の他の疾患の状態が継続して医療または生活規制を必要とする程 度の方 ②身体虚弱の状態が、継続して生活規制を必要とする程度の方 |
【引用:障害ある児童生徒の就学先決定について/文部科学省】
上記に記述しているのは就学基準と言い、学校教育法できちんと定められており、この条件を満たしていることが特別支援学校へ就学する1つの基準になります。以前は就学基準を満たしていれば、特別支援学校へ入ることが出来ましたが、現在は特別支援学校以外でも『通級指導教室』や『特別支援学級』のように選択肢がありますので、就学基準を満たしていても特別支援学校へ入学することが絶対に出来るということではありません。その子の障害の程度や特性、支援すべき内容などを十分に考慮し決定されます。
では、発達障害の場合はどうなのでしょうか?現在、就学基準には発達障害の項目は記されていません。しかし、発達障害の場合でも特別支援学校へ入学することは可能です。しかし、発達障害で特別支援学校へ就学するとなると発達障害だけではかなり厳しいのが現状です。発達障害に加えて知的障害などの障害がないと、特別支援学校ではなく『通級指導教室』や『特別支援教室』への就学になることが多いでしょう。
特別支援学校では、発達障害の子も多く在籍していますが、大部分は発達障害だけではなく別の障害と一緒になっているので、複数の困難などの改善や配慮を行うことが必要になるために『特別支援学校』へ就学していることになります。ですので、発達障害のみの場合であれば特別支援学校へ就学することは難しいでしょう。
3、少数人数で細かい指導や支援が行える環境が特徴
特別支援学校は、地域の小学校や中学校よりも障害の理解が深い上に、その子の障害の特性や程度、生活面や学習面で困難なことへの細かい指導を行うことが出来る環境です。障害の特性がゆえに、大勢で学校生活を送ることが難しかったり、生活面でのサポートが必要な場合には特別支援学校は大きなメリットがあります。
特別支援学校は1クラスあたり3人という少人数で教育や支援を行います。しっかりと障害に向き合い困難な分野に対して、サポートやトレーニングを一緒に取り組んでいき、将来自立した生活を送ることが出来るようになることが大きな目標です。
特別支援学校では、『通級指導教室』や『特別支援学級』よりも障害の程度が重い子どもが多くなります。そのため、指導教育を行う教諭も通常の教員免許に加えて、それぞれの障害の特性についての基礎的な知識を必要とする特別支援学校の教員免許を取得していなければなりません。特別支援学校の教員免許を持っている教諭が指導やサポートを行いますので、しっかりとその子の特性に沿った最適な指導を行うことが可能になります。
細かい支援やサポートを行うことが出来るという大きなメリットがある反面、特別支援学校のデメリットとして、他の児童との交流が少なくなることが挙げられます。特別支援学校では、障害がある児童が在籍しているために障害に合わせた支援や指導を行うことが出来ますが、障害がない人との交流が少なくなってしまうためにコミュニケーション能力が育ちにくくなってしまいます。
こういったデメリットを解消するために、地域の小学校や中学校との交流教室を設けたり、図工や給食といった一緒に活動することが出来る時間は一緒に学習を行ったりする機会が設けられてきています。共同学習や交流教室は、障害がある子どもが障害のない子どもと一緒に過ごすことで、コミュニケーション能力を育んだり、障害があってもなくても互いに理解を深めて尊重することが出来る関係を形成していくことが目的になります。そのため、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校の学習指導要領には、交流教室や共同学習を積極的に推進するように記されています。他にも、障害の程度が重いために特別支援学校へ通うことが出来ない児童に対して、特別支援学校の教諭が訪問指導を行ったり、保護者の同意に加えて医療関係者による管理がきちんと行える環境であれば、特別支援学校の教諭が医療ケア(経管栄養、たんの吸引、自己導尿など)の補助も行うことが出来るようになっています。特別支援学校では、障害の程度に合わせて特別支援学校の教諭が様々なケアや指導を行えるようになっているので、障害の程度が重いために通うことが出来なかった児童も学校へ通うことが出来るようになりました。
特別支援学校では障害のある子どもが学びやすい環境を整えると共に、独自の学習指導要領が定められています。その学習指導要領に沿った指導に加えて、障害の特性に合わせた指導を行っていきます。障害の特性に応じた指導とは、『個別の指導計画』と『個別の教育支援計画』があり、それぞれ特別支援学校で立案、実行していきます。
『個別の指導計画』と『個別の教育支援計画』とは
『個別の指導計画』
障害がある子どもに対して、どのような指導や支援を行っていくべきかという指導計画です。各学期や学年ごとに作成され、学習面での必要な支援や、目標を定めていき、『個別の指導計画』に沿って指導やサポートを行っていきます。
『個別の教育支援計画』
学校が中心となって作成しますが、福祉や医療などの機関としっかりと連携を図りながら、保護者の意見を聞き取り入れていき計画します。『個別の指導計画』が各学期や学年での目標や計画であることに対して、『個別に教育支援計画』は乳幼児期から学校を卒業した後までの長期的な計画になります。
特別支援学校では、この『個別の指導計画』と『個別の教育支援計画』に沿って、一人一人に合わせた教育指導を行っていきますが、中でも自立活動は、障害のある子どもが自分の苦手とする分野や改善することが求められることに対いて指導が行われます。それぞれの障害に合わせて指導内容は異なりますので、その子に最適な指導や支援を計画し目標を立てていきます。
他にも特別支援学校では、障害や年齢に合わせた指導や教科書でも障害によって配慮されています。このように、特別支援学校では様々な障害を持っていても、その子一人ひとりに合わせた教育環境や学習内容を計画し、目標を掲げて指導を行います。障害がある子どもが、自分の障害について理解し、自立を目指して自ら学んだり、生活面での困難を改善していくことが出来るのが特別支援学校での教育の大きな魅力になります。
4、特別支援学校への就学を希望する場合の手順
小学校や中学校で特別支援学校への就学を希望している場合には、それぞれの自治体で決められた手順で申し込みをする必要があります。必要な書類を揃え提出し、面接を行うことで『通級指導教室』『特別支援学級』『特別支援学校』のどの支援級に通うかが決定されます。小学校や中学校で特別支援学校へ就学したい場合の手順は以下になります。
【小学校や中学校で特別支援学校を希望する場合】
①市町村の自治体へ連絡
まずは特別支援学校への審査をお願いするために、自治体へ連絡をします。市役所の学校教育課など学校に関する課に連絡を入れ、必要な書類は何か、どのような手順で申請すればよいかを問い合わせしましょう。
②申請書を集め送付する
特別支援学校に通うためにはいくつか審査するための書類が必要になります。
基本的には
・申請書
・診断書
・発達検査の試験結果(wisc検査などの結果)
は必須になりますので、用意しておきましょう。発達検査や診断書の場合には費用もかかりますし、書いてもらうのに時間が必要になる場合がありますので注意が必要です。
③面談
多くの自治体では親子で面談を行います。面談の際に申請書類が必要になることがありますので、面談の日時までに用意しておくと安心です。
面談では生活面で困っていることや困難なこと、障害の特性、障害の診断名など子どもの様子や状況について話を聞かれることが多いです。発達障害の場合には、地域の学校ではなぜだめなのかという理由も問われることが多いので、障害の特性などを説明しながら答えられるように準備しておきましょう。
④審査⑤判定
すべての書類が受理され面談が終えたら、教育委員会による審査が行われます。この審査の結果、支援が必要と判断された場合には、特別支援学校に通うことが決定され、通知されます。しかし、特別支援学校は必要ないけれど、通級指導教室や特別支援学級が適していると決定された場合には、その旨が伝えられます。
特別支援学校へ通うことが出来るかは、教育委員会によって決定されますので必ずしも希望通りにいくことはありません。また、自治体によっては手順や内容が異なりますので、必ず事前に自治体の就学相談窓口で問い合わせて確認しておきましょう。
【地域の中学校から高等部への進学の場合】
義務教育ではない高校の場合には、他の高校と同様に受験を行い合格発表をされます。しかし、他の高校と違って面接が行われたり、願書を提出するまでに教育相談にいかなければならない所がありますので、事前見学でしっかりと手順や流れを確認しておくことが大切です。特別支援学校の受験に関しては以下の流れになります。
①市町村の自治体や学校へ進学希望を連絡する
まずは特別支援学校を希望し就学するために、自治体や中学校の進路相談へ連絡をして手順などを問い合わせします。市役所の学校教育課など学校に関する課に連絡を入れ、必要な書類は何か、どのような手順で申請すればよいかを問い合わせしましょう。中には用意するのに時間がかかる書類がある場合がありますので、時間に余裕を持って連絡し、手順や提出書類などを確認しておくことが大切です。
②志望校の見学、教育相談へ行く
小学校や中学校と違い、高校は義務教育ではありませんので、希望する人のみ学校の見学や説明会へ行きます。障害の種類によっては学区がきめられていたり、複数受験する場合には日程の調整なども考慮しなければなりません。
特別支援学校も他の高校と同様に見学や説明会を毎年実施していますので、気になる特別支援学校があれば積極的に行くようにしましょう。その時に、教育相談をする場合がありますので、どのような障害があり特性があって特別支援学校を検討しているという旨を伝えておきましょう。教育相談はどの特別支援学校にも設けられていますが、学校によっては教育相談に参加していなければ二次募集の際に受験出来ないと決められている所もありますので、注意が必要です。
説明会や教育相談の時に、願書をもらうことが多いですが、郵送で取り寄せなければならない時もありますので、しっかりと願書をもらうためにはどうすれば良いかを確認しておくことも重要です。
③試験
受験日は2日程度設けられており、出願状況などに応じて決定されます。試験内容に親子での面接がある所が多いので、仕事をしている人はこの2日間はどちらが試験日になってもかまわないように休んでおきましょう。
試験内容は特別支援学校や、障害の特性、程度により異なりますが、国語(復唱や音読、書きなど)、算数(図形合わせ、時計の読み方、積み木、簡単な計算など)、作業(シールを貼ったり、紙を線上に切ったりするなど)、体育(反復横跳びや握力など)、面接が多くなります。もちろん、無茶なことを受験内容に盛り込んでいることはありませんので、その子の実力が発揮できるように気持ちを落ち着かせてあげることが大切です。
面接は特別支援学校によって様々ですが、発達障害の程度・特性や高校を卒業後にしたいこと、学校で学びたいことや向上させたいことなどを質問されることが多くあります。他にも住所や名前といった基本的な内容を質問される場合がありますので、面接は一緒に練習しておくと安心です。
④合格発表
合格発表の日程に学校で直接発表されます。合格が決定した場合には、書類が手渡されたり、郵送されてきますので期日までに提出するようにしましょう。」
『通級指導教室』『特別支援学級』は小学校と中学校にしか設置されていないので、高校へ進学する時には発達障害がある子や保護者は、進学先に悩むことがあります。現在、『通級指導教室』『特別支援学級』が設置されている高等学校はなく、発達障害の子どもにとってどのような進路の選択が良いのかという判断が難しいのが現状です。『通級指導教室』『特別支援学級』に通っていたものの、知的な遅れがないために普通の全日制の高等学校へ進学したものの、周りとのコミュニケーションが上手くとることが出来ず苦しい思いをしたり、環境に馴染むことが出来なかったために不登校や中退という道を選択してしまう人がいることも事実です。
『特別支援学校』は高等部まで設置されていますので、障害があり専門的なサポートが必要となった場合には、特別支援学校の高等部へ進学することも可能です。その子にとって、どのような学生生活を送りたいか、障害の程度や特性をしっかりと見つめなおして、進路を考えることが大切です。
高等学校から特別支援学校への入学を希望する場合には、まずは担任の先生に相談し、教育コーディネーターに特別支援学校へ就学したいことを伝えましょう。そうすると、どのような場所へどのような申請を行えばよいかなどを詳しく教えてくれます。また、自治体によっては就学相談窓口が設置されているところもありますので、そちらへ相談してどのようにすれば良いかを聞いてみましょう。
5、まとめ
発達障害の場合、現在は小学校や中学校では通級指導教室が設けられており、その子の特性に応じた支援や指導を行うことが出来ます。しかし、高校となると通級指導教室が設けられている学校はありませんので、普通学校へ通うか、特別支援学校や通信制の高校へ進学するかになります。就学先の選択は大きな分岐点になりますので、その子の特性を理解、把握した上でしっかりと考えることが大切です。特別支援学校では障害について理解が深いために、障害の悩みを半減して通うことが出来るというメリットもあります。
その子が通いたい場所や学びたい内容、どのような学校生活を送りたいかも相談し、二人三脚で学校見学や資料を見て考えていくことが最適な就学先を見つける近道になるでしょう。