『てんかん』という病気をご存知ですか?
てんかんは幼少期に多くある病気の1つで、治療を行っていけば大人になるにつれて症状は目立たなくなっていきますが、大人になってもたくさんの患者がいます。
てんかんは発作が頻繁に起こることが特徴に挙げられますが、発作を見た時にはどのようにすれば良いのかは難しいですよね。
発作に遭遇した時にすぐに対処出来るようになるは、てんかんについて知っておくことが大切です。てんかんの人が楽しく自然に暮らせるように正しい知識を知ることから始めましょう。
目次
てんかんは脳の働きが深く関係している
世の中にはたくさんの病気がありますが『てんかん』という病気は一度は名前を聞いたことがある方が多いでしょう。または、てんかんを持っている人が身近にいる方もいるかもしれません。てんかんは決して珍しい病気ではなく、子供で約30万人、大人を合わせると全国で約100万人の人が抱えており100人に1人という割合でいることがわかります。
てんかんの症状として発作が頻繁に起きることは有名ですが、なぜ発作が頻繁に起こるのでしょうか?実はてんかんの発作は脳と深い関係があり、脳の中で『電気の嵐』が起こることで、脳内がパニックを起こし発作という症状で表面化してしまいます。では、脳とはどのような働きをしているのかをまずは学びましょう
【脳は体に電気信号を送る核】
人の体にはたくさんの神経が張り巡らされていますが、この神経は様々な感覚を脳へ伝えている働きがあります。『熱い』『冷たい』といった感覚から、視覚や聴覚から得た情報など全ての情報は神経が脳へ伝えていきます。逆に脳は神経へ信号を送ることで『歩く』『触る』『食べる』といった体の動きを指示しています。食べたいものがあるときに、食べたいという気持ちに反応し、脳が『手を出す』という命令を出します。脳は目に見える行動はありませんが、意識しない状態でも心臓を動かすなど絶えず働き命令を出しています。
体の全ての命令や信号を管理している脳は、神経細胞が集まることで構成されており、この神経細胞同士は電気信号で情報を伝えあっています。この神経細胞の電気信号が乱れてしまい嵐のようになった状態を『電気の嵐』と呼びます。電気の嵐が発生すると、脳は正しい情報を受け取ることや命令を出すことが出来なくなり、体の動きを制御できなくなります。これがてんかんの発作です。
てんかんの原因は様々考えられ、てんかんという病気が元になり起こる『特発性てんかん』と、生まれた時に脳が傷ついたり低酸素状態であったりと脳の一部に傷がついたことで発症する『症候性てんかん』に分けられます。
特発性てんかんは原因がはっきりとしておらず、なぜ生まれつきてんかんを持っているのかは今後の医療の課題になっています。遺伝しないと言われているてんかんですが、中にはてんかんを発症しやすい傾向がある遺伝子がある可能性も指摘されていますが、現在はまだまだ不明な点が多くあります。
てんかんは発作が繰り返し起こることが特徴
てんかんは発作が頻繁に繰り返されることが特徴になりますが、なぜ繰り返されるのでしょうか?
元々脳の神経細胞は電気の嵐が起こることで発作が起きますが、実際にはてんかんの人は小さい嵐は何度も脳内で起こっており、脳波を検査すると針が触れるので診断が確定します。発作に表れていなくても、てんかんの人の脳内は電気の嵐が何度も起こってしまうのです。
脳の情報伝達の役割がある神経細胞は、電気の嵐が繰り返されると発作を起こしやすくなる傾向が元々備わっています。この発作を起こしやすくなってしまう性質はまさに体質の1つであり、電気の嵐が起きても発作にならない人もいれば、すぐに反応し発作が起きてしまう人もいます。また、年齢によっても変化していき、大人になるにつれて脳も大人の脳になり、発作が起こりにくくなっていく傾向にあります。しかし、いったん神経細胞で発作を起こしやすい神経細胞が出来てしまうと、癖になってしまいどんどん発作を起こしてしまいます。てんかんの人はこの発作が癖になってしまい、頻繁に発作が起こってしまう状態を指します。
他の障害を合わせて発症している人も多い
てんかんはてんかんのみだけでなく、他の障害を合わせて発症している人も多くいます。では、てんかんと合わせておきやすい障害とはどのようなものがあるのでしょうか?
【知的障害】
同じ年齢に比べて、知的な理解や学習が上手くいかず遅れてしまう障害のことを指します。計算などの問題を解決する能力や記憶力といった学習的な能力から、判断する能力や臨機応変に対応する能力が上手くいきません。乳幼児期には知的障害と診断されますが、てんかんと合わせて知的障害がある人や約20%~30%いると言われています。
【自閉症】
こだわりが強く、コミュニケーションを図ることが苦手で、知的遅れがあり人とうまく付き合うことが出来ない障害が自閉症です。今は自閉症スペクトラムと言われ、幅広い特徴がありますので他にも様々な症状がある上に、人によって症状が軽かったり重かったりと個人差も大きくなるので一般的にはわからないこともあります。てんかんと自閉症を合わせて発症している人や約20%~25%ほどいると言われています。
知的障害や自閉症はてんかんと合わせて発症していることが多い障害ですが、今紹介した障害以外でも注意力に欠けじっとしていることが難しいADHD(注意欠陥多動性障害)が併せ持っていることもあります。
このようにてんかんと合わせて何らかの障害がある人の中には、学校へ進学するときに特別支援学校や特別支援学級などで学習していくことがあります。
脳の場所によって発作の現れ方は異なる
電気の嵐が起きることで、発作が起きてしまうてんかんですが、脳のどの場所に電気の嵐が起きるかによって発作の時の現れ方が異なってきます。大脳は左右に分かれており、それぞれ反対側の体をコントロールしていますので、右の脳で電気の嵐が起きた場合には左半身に症状が出てくることになります。どんな発作が体のどこにどんな様子で発現したかをしっかりと知ることで、どこにてんかんの焦点があるかを推測することが出来ます。
部位 | 働き | 発作 | 症状 |
頭頂葉 | 皮膚の感覚や空間を認識する | 体性感覚発作 | 体の一部がピリピリとする 肌が非常に敏感になる等 |
後頭葉 | 目からの情報を認識する | 視覚発作 | 目が一瞬見えなくなる 目の前がピカピカする等 |
側頭葉 | 耳からの情報を認識し言葉に関わる働きがある | 自律神経発作 精神発作 |
発汗、腹痛、悪寒が起きる 不安感や既視感が起きる等 |
前頭葉 | 体の各部を動かす働きがあり 感情や意欲を調整する働きがある |
運動発作 | 体の一部が痙攣する等 |
このように脳はそれぞれの部位で、情報を処理しています。部位によって発作の症状は変わってきますので、どこにてんかんがあるかを知ると、症状も検討を付けることが出来るので、その分対処も迅速に行える可能性があります。
てんかんの発作の種類とは
発作と聞くと、どうしても全身が激しく痙攣をおこして倒れるようなイメージを持たれがちですが、てんかんの症状は様々で全身の痙攣の様な誰が見てもわかる全般発作から、体の一部が少し痙攣するようなあまり目立たない部分発作まで多岐に渡ります。しかし、小さな発作だから軽度というわけではなく、全身症状のてんかんであっても治療をするとすぐに治るものもある反面、小さい発作であっても治療の効果が得られないこともありますので、症状の大小だけで判断することは危険です。まずは、部分発作、全般発作それぞれの症状について把握しておきましょう。
【部分発作】
部分発作は名前の通り、脳の一部で電気の嵐が発生し発作が起きることを指します。部分発作の中でも意識を失わない『単純部分発作』と意識を失う『複雑部分発作』に分けられます。では、それぞれの違いは何なのでしょうか?
■単純部分発作
体の一部が痙攣するなど脳の一部でのみ電気の嵐が発生し起きる発作を部分発作と言いますが、中でも意識を失わず発作が起きていることがわかっている部分発作を『単純部分発作』と言います。単純部分発作は、発作が起きている時に「今発作が起きている」と自分で認識することが出来ることが大きな特徴です。体の一部が震えたりするだけでなく、幻覚が見えたり、ひそひそ話をされていると感じることもあります。
■複雑部分発作
発作が起きている間意識がある単純部分発作と異なり、発作の間意識が失ってしまう発作のことを『複雑部分発作』と言います。複雑部分発作は、発作が起きた一瞬は意識がありますがその後すぐに意識がなくなります。
意識がないと聞くと、倒れてしまうのではないかと思うかもしれませんが、見た目は変わらずふらふらと歩き回ったり口を動かしたりしているものの、意識障害を起こしており発作が起きている間の記憶はありません。複雑部分発作の場合、急にぼーっとしたり、意味なく歩き回る自動症などの症状が現れることが多くなります。複雑部分発作のまま全身発作に移行することもありますので注意が必要です。
【全般発作】
脳の一部で起きる部分発作に比べて、大脳全体で電気の嵐が起きることで発生する発作を全般発作と言います。全般発作が起きる人はほとんど意識は失われており、発作中の記憶はありません。全般発作は『強直間代発作』『欠神発作』『ミオクロニー発作』『脱力発作』の4つの発作に分けられます。
■強直間代発作
強直間代発作は別名では痙攣発作と言われる様に、突然意識を失い歯を食いしばり呼吸が止まり、全身が強く硬直する発作です。体をがくがくと痙攣したまま倒れてしまうこともあり、数十秒続きます。複雑部分発作から全般発作に移行した場合には、強直間代発作になることが多いです。急に倒れてしまうので、倒れた場所によっては怪我をしてしまったり、発作が治まっても意識は完全には戻っていないので、怪我や事故に発展する危険があります。
■欠神発作
話をしている時に急に意識がなくなるのが欠神発作です。欠神発作は強直間代発作と異なるのは、痙攣や体のこわばりはなく意識が失われている状態のみが症状として表れてくることです。欠神発作は単に集中していないのではと勘違いされてんかんだと気が付かれないことがあります。眼球が上転したり、まぶたがピクピクするなど体に表れることもありますが、一貫して変わらないのは呼びかけにも全く応じず意識障害を起こしているということです。
■ミオクロニー発作
ミオクロニー発作は体の一部が一瞬ぴくっと収縮する発作です。瞬間的な発作になりますので、周りはもちろんのこと自分でもあまり気が付いていないことがある発作で、てんかんだと気が付くまでに長くかかることがあります。症状は個人差があり、筋肉がピクッとするだけの人もいれば、持っているものを投げ飛ばしてしまうくらい強く収縮する人もいます。
■脱力発作
全身の筋肉の緊張が低下することから崩れるように倒れてしまうのが脱力発作です。本来筋肉は緊張状態にあることで、姿勢を維持することが出来ますので、その緊張がなくなってしまうとその場に倒れてしまいます。数十秒で収まることがあり、発作だと気が付かれにくくなります。
このように、全般発作と言っても様々な種類があります。全般発作が短い時間で何度も繰り返したり、5分以上強直間代発作が続く場合にはけいれん重積発作になり、命の危険が及ぶ可能性があります。以前は30分以上続く発作に対して重積状態と言われていましたが、5分~10分ほどの発作でも命の危険や脳に影響があると言われているので、すぐに医療機関に診てもらう必要があります。
てんかんの治療は?80%の子供は大人になるまでに治る!
てんかんの発作と言っても、間違えやすいけいれんは多くあります。急な高熱が原因で起きる熱性けいれんや低血糖発作、熱中症によるけいれんなどとてんかんの発作は一般人には判断出来ません。てんかんは専門的な医師により脳波の検査を受けて診断されます。
人の脳細胞は少しずつ電流を出しているので、脳波計で計るとてんかんの人は発作が起きていなくても、電気信号の乱れが起きていることがわかります。しかし、約4%の子供はてんかんではないのにも関わらず脳波の乱れを起こしていることがありますので、最終的な診断はMRI(核磁気共鳴画像)とCT(コンピューター断層診断装置)で脳の画像検査を行います。そういった検査の結果、てんかんかどうかを専門医が診断することになります。
てんかんと診断された場合には、すぐに治療を開始します。てんかんは今は約80%の子供が大人になるまでに治ると言われているように、正しい治療をきちんと行うことで、大人になる頃にはてんかんが治る可能性が十分あります。
てんかんの治療の基本は投薬治療になります。抗てんかん薬を飲むことで、脳に電気信号の乱れが起きても発作を起こさないようにする効果があります。抗てんかん薬は発作を起こさないようにする効果がありますが、てんかんの発作が最近ないからといって勝手に飲むのをやめることは出来ません。毎日飲むことで発作を起こさないようにする必要があります。
てんかんの発作を起こさない生活を送ることが大切
てんかんの治療は抗てんかん薬以外にも手術や食事療法などがありますが、特にてんかんの発作を起こさないように生活を送ることも非常に大切です。てんかんの発作は寝不足や体調が悪い時に起こりやすいので、規則正しい生活を送ることを守っていかなければなりません。
てんかんは発作をすぐに治すことは今の医療では出来ませんが、てんかんの発作が起きないように治療を行いつつ生活を見直すことが大切です。
まとめ
周りから見ると急に発作が起きて倒れたように見えるてんかん。てんかんと言ってもたくさんの発作の種類がありますので、1つの症状があるなしでてんかんかどうかを勝手に判断しないようにしましょう。今はてんかんは80%の子供が治ると入れていますので、診断されてもきちんと治療を行いてんかんと付き合っていくことが大切です。
てんかんの人と私たちが共生していくためにも、正しい情報を把握しておきましょう。