目次
1、HSP『敏感気質』とは?
テレビなどのメディアでも取り上げられることが増えてきたHSP。しかし、実際に自閉症スペクトラムなどの発達障害に比べると、HSPの認知度はまだまだ低くなります。生きづらい、集団生活が辛いと感じているものの、発達障害には当てはまらないので、性格の一部だろうと思っている人も実はHSPだったということが多くあります。では、HSPとは何なのでしょうか?
HSPとは【Highly Sensitive Person(ハイリーセンシティブパーソン)】の略で、直訳すると【とても繊細な人、敏感な人】という意味があります。HSPの最大の特性は、生まれつき周りからの刺激を過度に受け取ってしまい、苦しみ、悩んでしまい他の人よりも傷つきやすいという点です。ささいな事を気にしてしまったり、周りの様子を気にするあまりストレスを多く溜め込んでしまい、うつや精神疾患などの二次障害に至ってしまう可能性もあります。
HSPは1996年にアメリカの心理学者であるエレイン・N・アーロン博士が提唱した概念で、4つの属性があると言われています。
1、受け取る情報の処理が非常に深い(Deep of processing)
2、周りの雰囲気や感情から得る刺激を強く受けやすい(Overstimulated)
3、感情移入を行い共感をしやすい(Emotional reactivity and high empathy )
4、ささいなことに対しても気が付きやすい(Sensitivity to subtle stimuli)
この4つの属性の頭文字をとって、HSPの特性のことを『DOES』と言います。一見、この上記の4点は生活をしていく上で、何も不自由しないと思われがちですが、実際にHSPの人からすると、他の人のちょっとした言動や感情に振り回されてしまい、過度のストレスを感じ取ってしまい生きずらい、生き苦しいと感じてしまいます。以前であればネガティブ思考やシャイな人と表現されていましたが、実際にはDOESは遺伝的なもので、生まれつきの特性ですので自分の意思でコントロールすることは非常に難しくなります。
2、HSPの特性とは
先ほど紹介したように、HSPには4つの特性があります。
1、受け取る情報の処理が非常に深い
2、周りの雰囲気や感情から得る刺激を強く受けやすい
3、感情移入を行い共感をしやすい
4、ささいなことに対しても気が付きやすい
ということが特性になりますが、HSPの特性についてもう少し詳しく解説します。
①洞察力が高く、深く考えた上で行動をする
繊細で細かい部分を気が付くことが出来るHSPの人は、基本的に洞察力が高く物事を熟考した上で、行動へ移していきます。時間勝負で早くに作業することは不得手ですが、時間をかけて自分の中の理想のものへ近づけるために作ることは非常に得意です。丁寧で慎重に作業を進めていくのはHSPの人の大きな特徴です。コツコツと時間をかけて作ったり、一人で黙々と作ることを苦とせず作り続けられる反面、短い時間で考えて作ることは苦手な人が多くなります。
②刺激を受けるのが他の人よりも強い
HSPの人はHSPではない人に比べて、刺激を多く受け取ってしまいます。HSPではない人にとっては、些細な事であっても考えすぎてしまったり気にして悩んでしまいます。五感からの刺激はもちろんのこと、場や相手の雰囲気や感情なども大きく刺激になり、ストレスに感じてしまいがちです。
ですので、HSPの人は一般の人よりも強いストレスを長時間感じていることになり、精神的にも身体的にも疲労してしまい、ひどい場合には二次障害に悩むこともあります。子どもの場合、思春期の時に悩むことが多く、それがきっかけで学校に行きたくなくなってしまったり、環境の変化にとまどってしまうことがあります。子どもがストレスを感じやすいという特性を保護者もしっかりと理解しておかなければなりません。
③感受性が豊かで共感力が高い
相手に気持ちを理解し、分かち合う共感力は個人差が大きいですが、HSPの人は感受性が豊かで共感力が高い傾向にあります。話を聞くのが上手で、相談されることも多いですが、感受性が豊かで相手の気持ちに寄り添うことが出来るので、相手の気持ちに共感することが出来るHSPの人は、相手が辛く悩んでいる姿を見ると、自分の事のように辛く感じてしまいます。ですので、先ほどと同様に精神的に大きなストレスを感じてしまい疲れてしまいます。
相手の辛さや楽しさなどの気持ちを敏感に感じ取り、寄り添うことが出来るという素晴らしい面がありますが、過度に辛く感じてしまうなど負担が大きくなります。
④ネガティブであったり自己否定が強い
非常に繊細で傷つきやすいHSPの人は、どうしてもネガティブであったり、自己否定が強くなりがちです。相手を責めたり、きつい言動は少ないので、対人関係では表面的には苦労することは少ないですが、HSPの人は自分に非があるのではと思うことが多く、実際には対人関係でストレスを感じていることが多くあります。
通常であればあまり気にならないことであっても、『自分がしたことが気に障ったのではないか』『自分が悪かったのではないか』と自分を責めることが多いので、人付き合いを苦手と思ってしまいます。本音を言いにくいという特性もありますので、それがかえって裏目に出て周りから標的にされることもあります。自分を責めないで済むように自己肯定感を高めると共に、周りの理解も重要になります。
特に、子どもの中では自分の意見を言わないことや、周りに合わせていることをからかったり、いじめのターゲットとされてしまうことがあります。悪意のないからかいだけでもHSPの子どもからするとストレスに感じることがありますし、いじめは子どもの人生に暗い影を落とします。さらには、いじめられるのも自分が悪いからだと考えてしまう危険があります。保護者は子どもに変化がないかをしっかりと見つめるとともに、心のケアをしていくことが大切です。
⑤時間制限があったり、プレッシャーがあるとストレスを溜めてしまう
学生生活では主に対人関係での悩みが多くなりますが、いずれ成長していった時に最大のネックになるのが『仕事』です。就職し仕事に就くと、臨機応変に対応したり、時間内に必要な書類などを作成したりと、時間内に仕事内容を終わらせるという状況は常に付きまといます。当然、新社会人の時は出来ない仕事も年数を重ねる上で多くのスキルを求められます。マルチタスクを求められたり、忙しい状況であったり、プレッシャーがかかる状況はHSPの人にとっては得意ではないので、どうしても大きなストレスを感じてしまいます。
HSPの人はきっちりと仕事を進めることは得意ですが、おおまかでも良いので時間内にまとめるという場合は、自分の中できちんとしたいという思いと、時間内に終わらせなければならないという葛藤が生まれてしまいます。それが出来ない場合に、『仕事が出来ない人、仕事が遅い人』と言われてしまうこともあるので、非常に辛く心にダメージを受けてしまいます。
HSPの特性について理解があり、本人の意思を尊重出来る職場であれば良いですが、そういう職場はまだまだ少ないのが現状です。そのため、我慢をし続けてしまい身体を壊してしまったり、精神的に不安定になってしまうこともあります。また、職場の人事異動や、上司が変わったことによる仕事内容の変化に対応することも苦手ですので、慣れるまで過度のストレスがかかってしまいます。
HSPの人の良い特性である『深い洞察力』『繊細で気が付きやすい事』『クオリティの高い仕事ぶり』『感性の豊かさ』をしっかりと活かせる仕事を選ぶことが、充実した生活を送るためには重要な課題になります。
HSPの人に見られる行動や考え方例
・想像力が豊かで1日中想像に耽ることがある
・何かを始める時に必要以上に考えてしまったり慎重になる
・哲学や生き方に興味・関心がある
・どんなに好きな人であっても自分一人の時間が必要
・大勢集まるパーティーなどの後はとても疲れてしまう
・大勢と一緒にずっといるのは苦手なほう
・短時間にしないことがたくさんあるとパニックになったりしんどくなる
・競争させられることが苦手で緊張する
・つい人の表情や空気を気にしすぎてしまう
・自分を否定したり責めてしまうことがある
・ちくちくする素材が苦手
・騒音や強い光が苦手
・小さなこともずっと引きずってしまったり、気にしてしまう
・少人数や1対1の方が好き
など
HSPは個人差が大きいので、上記以外の特徴でもHSPの可能性は十分にあります。周りを気にしすぎたり、傷つきやすい、ずっと引きずってしまうというのが代表的な特徴になりますので、思い返した時にそういったことで悩む経験がある人はHSPかもしれません。またその症状がなくても、どれかが非常に強くストレスを感じることがある場合もHSPの場合があります。気になる場合には、セルフチェックで一度確認してみてください。
3、どうしてHSPの人は生きづらいのか?
様々な特性があるHSP。繊細で相手の気持ちをしっかりと考えることが出来る反面、環境の変化や仕事内容、学生生活での友人関係などに左右されやすくストレスを溜めやすいのも大きな特性です。それを個性として、周りが理解出来れば良いですが、実際にはまだまだHSPの認知度は低く理解してもらうことは難しいです。
HSPの人は自分の生活を振り返ってみると、『生きづらい』と感じることが多いです。場の雰囲気や相手の感情に気疲れてしまったり、仕事で求められることがプレッシャーになってしまたりと、普段の生活の些細な事も気にしてしまいます。その小さなストレスが積ることで、精神的にも身体的にも苦しくなってしまいます。
HSPの人は国や人種に関係なく、5人に1人程度いると言われているので決して数字としては少なくありません。しかし、認知度は他の障害や特性に比べると圧倒的に低いので、どうしても『ネガティブな人』『すぐへこたれる人』『気にしすぎ』と一蹴されてしまい、HSPということに気が付いてもらえません。
5人に1人程度のHSPの人の繊細で敏感すぎる感性は、残りの人のゆるい感性の人によって性格やネガティブなどとあしらわれてしまい、結果的にHSPの人が生きづらいと感じてしまいます。
理解をしてもらえていないことが、HSPの人にとっては大きなストレスになります。HSPの繊細さや共感力の高さ、敏感さは、病気ではないので治療で解決することは出来ません。多くの人がHSPについて理解し、共感していくことが大切になります。
4、発達障害とHSPはどうちがうの?
こだわりが強かったり、相手にストレートに言ってしまい対人関係で悩むことがある発達障害。発達障害はある特定の分野が突出して得意な反面、際立って苦手な分野もあるという偏りが非常に顕著な脳の機能障害です。発達障害も今は認知度が高くなってきましたが、以前は認知度が低かったために周囲には理解されず心が傷つくことが多くありました。
HSPの特性(強い刺激が苦手、環境の変化が苦手など)の中には、発達障害の特徴に当てはまるものもあります。ですので、HSPと発達障害の線引きは非常に難しく曖昧になります。
しかし、発達障害の特徴で周りの空気を読むことが難しいという点では、HSPとは異なります。HSPの人は周りの空気や雰囲気を敏感に感じ取ってしまい疲れてしまいます。このように、発達障害とHSPの特性には相違点があり、全く異なるとは言い難いのが現状です。発達障害かどうかは専門的な人による診断が必要になりますので、自分や子どもが発達障害なのかHSPなのかはかかりつけ医や発達障害支援センターに相談に行きましょう。
5、まとめ
まだまだ認知度が低いHSP『敏感気質』。発達障害かもしれないと病院へ行った時に、HSPと診断されることも多くあります。発達障害も以前は理解が少なく、自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群等)や注意欠陥多動性障害(ADHD)なども、『親のしつけが甘い』『甘やかしすぎ』『乱暴な性格』と障害を理解していない人によって勝手なレッテルを貼られていました。しかし、発達障害についての書籍や、メディアでも多く取り上げられるようになり、まだまだ道のりは長いものの徐々に理解を深めつつあります。
HSPは病気ではなく、あくまでも個人の特性になります。繊細な部分も敏感な部分も、きっちりとした真面目な部分もどれも素晴らしい特性です。しかし、その素晴らしい特性から大きなストレスを感じてしまい、辛いと感じることが多いのも事実です。
自分がHSPと辿り着けることも少なく、多くのHSPの人は自分がHSPと気がつかずに、ストレスを感じながら生活をしています。その人のために、私たちが出来ることは、HSPについて理解し認め、その個性を尊重し少しでもたくさんの人にHSPという個性を知ってもらうことが大切です。