発達障害の子にとって苦手な事が多い対人関係を補うためにソーシャルスキル・トレーニングを行うことが多いですが、生きていくためにはライフスキルが必要不可欠です。
では、ソーシャルスキルとライフスキルの違いとは何でしょうか?
今回はソーシャルスキルとライフスキルの違いから、発達障害の子にとって大切なライフスキルについて解説します。
目次
1、発達障害に最も大切なことは『理解』
発達障害にはたくさんの種類があります。対人関係が苦手で、こだわりが強くなってしまい集団行動についていくことが難しい自閉症スペクトラム(ASD)、集中し続けて行動すること(注意欠如)や、衝動的に体が動いてしまう注意欠陥多動性障害(ADSD)、読み書きや計算、推測など学習に必要なスキルの内2つ以上が難しくなる限局性学習障害(LD)と特性についても差がありますが、発達障害の場合は他の病気や障害の様に必ず特性が大きく表れるというわけではありません。
発達障害の特性が子供の頃から顕著に表れる人もいますが、人によっては大人になるまで発達障害があったことに気が付くことが出来ない人もいます。発達障害は『見えない障害』と言われているように、見た目や行動のみではすぐに判断することはまず出来ません。
また、本人ですら障害があることに気が付くことが出来ず、生きづらいと感じながらも苦しく辛い日々を送っていることがあります。しかし、発達障害と周りの人だけでなく自分自身も気が付くことで、理解を得ることが出来る上に協力してもらうことも出来ますので発達障害の人自身が充実した日々を送ることが出来ます。
発達障害の子にとって、最も大切な『理解』。発達障害は障害という文字が付けられていますが、病気のように治すものではありませんし、治療などで完治することはありません。周りと少し異なる特性を元々から持っていることで苦労することもありますが、その特性を長所として輝かせることが出来るケースも多くあります。発達障害の子が持つ特性は本人と家族、周りの人が『理解』をすることで、生活の中でうまく活用し過ごしていくことが出来るでしょう。
では、逆に発達障害について理解してもらえなかった場合にはどうなるのでしょうか?周りが発達障害について理解していないと、本来であれば特性から来る行動であっても『わがままだ』『怠けている』『乱暴な子だ』と表面のみしか見ることが出来ず、その子にあった適切な指導を行うことが出来ません。そして、理解されない苦しみや誤解されたまま注意されることで、子供はかなりのストレスを感じます。ストレスを感じ続けて生活をしていくことで、心身の不調などの二次的な障害の引き金になってしまう可能性があります。発達障害について『理解する』ことは、発達障害の子にとって何よりもかけがえのない事ということを覚えておかなければなりません。
2、日常生活にはどんなスキルが必要?
日常生活を送るために必要となるライフスキルですが、実際に日常生活ではどのようなスキルが必要になるのでしょうか?
ライフスキルは生活を送る上で必要になるスキルのことですので、人それぞれ必要なスキルは異なっていきます。特に発達障害の子の場合、特性の差が大きいので一般論としてのライフスキルではなく本人にあったスキルを伸ばしていくことが大切です。
一般的なライフスキルとしてWHO(世界保健機関)が掲げている10項目が以下になります。
1.意思決定
2.問題解決
3.創造的な思考
4.批判的な思考
5.効果的なコミュニケーション
6.対人関係のスキル
7.自己認識
8.共感性
9.感情への対処
10.ストレスへの対処
10項目はこのようになりますが、それぞれが関係していることがありますので、大きく分けると以下の5項目になります。
ライフスキル | 内容 |
意思決定のスキル | 選択肢の中から自分が最も適している・望ましいと思うものを選択できるスキル。また問題に直面した時に、どのようにすればよいかを考え解決へ導くことが出来るようになる。 |
効果的なコミュニケーションスキル | お互いについて理解共感し認めていく上で、 最適な意見や内容を一緒に見つけていくことが出来るスキル。 他の人との関係を損なわずに自分の意見も伝え、他害の意見を尊重することが出来る。 |
自己認識・自己実現へのスキル | 自分の好きな所を発見し肯定していくことが出来るスキル。 自己肯定感を育み対人関係へも強い影響がある。 |
目標設定のスキル | 自分が叶えたい内容のためにどのような過程を経て行動すればよいか考え行動へ移すことが出来るスキル。 目標のためにモチベーションをアップさせ自分らしく生活していくために必要になる。 |
ストレスへのマネジメントスキル | 自分を高める良いストレスを感じつつも、悪いストレスを引き起こさないように実践し対処する能力。 感情を抑えたり、逆境をばねにする力など困難な事があっても立ち向かうことが出来るようになるために必要になる。 |
一般的にはこのようなライフスキルを育てていくことで、自分が何か困難な場面に出くわした時にどのように計画を立てて、行動するのが良いかと判断し自分のモチベーションを高めていったり、選択をすることが出来ます。
しかし、このライフスキルは発達障害の子にとっては困難な事が多くあります。もちろん発達障害がない場合でも、それぞれ得手不得手がありますので必要となるスキルやトレーニングしなければならないライフスキルは異なってきますが、発達障害の子は特にその子にあった最適なライフスキルが必要になります。
3、発達障害の子に教えるべきライフスキルは一人ひとり異なる
先程紹介したように、WHOの10項目のライフスキルはあくまでも総合的なライフスキルであり、発達障害の子の場合には自然に学び身につけることが難しい場合があります。もちろん、誰しも得手不得手がありますのでライフスキルといっても自分にとって育まなければならない項目は異なりますが、発達障害の子の場合にはさらに具体的でかつ習得しやすいライフスキルであることが大切です。
発達障害の子のライフスキル | 内容 |
健康管理 | 生活リズムを一定に保ち、自分の体調を管理できるスキル。 体調が悪い時などには自分で医療機関に行くという選択が出来るようになること。 |
住居 | 部屋や家の中の整理整頓が出来るようになること。 公共料金や家賃などの支払いや 賃貸物件のルールをきちんと守ることが出来るスキル。 |
外見、身だしなみ | 毎日お風呂に入り清潔に保つことや、髪や服などの身だしなみを 整えることが出来るようになること。TPOを考えられるようになること。 |
対人関係 | 可能な範囲内でルールやマナーを身につけていき、 良好な人間関係を築くことが出来るようになるスキル。 |
休暇の過ごし方 | 休み時間や休日を楽しく快適に過ごせるスキル。体と心を休めつつ 自分の趣味や勉強を程よく楽しむことが出来ること。 |
外出・行動手段 | 自分が行きたい場所へ時間通りに行くにはどうすべきかと計画するスキル。 公共交通機関などのルールを守り、移動することが出来るようになる。 |
法的なトラブル | 金銭問題や法的な問題を避けることが出来るスキル。 一人暮らしをしたり将来的に最も重要になってくるスキルの1つ。 |
進路選択 | 大学や就職の際に自分はどうしたいかと 先の見通しをたてて行動するためのスキル。 |
金銭感覚 | 自分が使うことが出来る予算を考え、計画的にお金を使うこと。 一人で買い物をした時に自分で予算を考え、本当に必要なものかと感情をコントロールすることが出来ること |
地域参加 | 学校や家族だけでなく、理解があり なおかつ楽しく過ごすことが出来る場所への参加 |
このように、一般的には成長していくにつれて自然に身についていったり、周りから学んだりすることが多いライフスキルですが、発達障害の子の場合には自然にルールを身につけることが難しくなりますので、ライフスキル・トレーニングを通し生活に必要な最低限のライフスキルを養っていくことが大切です。そうすることで、一人暮らしをしたり社会人として働く時に大きなトラブルや混乱がなく生活を送ることが出来ると考えられます。
4、ソーシャルスキルとライフスキルの違いとは
生活をしていくために必要となるライフスキルですが、集団行動や対人関係が上手くとれないことが多い発達障害の子の場合、どうしても対人関係をうまくとるためのコミュニケーション方法を学ぶソーシャルスキルに重点に置く人が多くなります。ソーシャルスキル・トレーニングも学生生活や社会生活で必要なスキルになりますので、トレーニングやサポートを行ってスキルを上達させることは大切です。
ソーシャルスキル・トレーニングは人と人との関係を保つために『貸して下さい』や『ありがとう』といった基本的なコミュニケーションの取り方から、あらゆる場面でどのような行動、言葉で接するのが良いかを学ぶことが出来ます。しかし、ソーシャルスキル・トレーニングは発達障害の子にとって苦手とする行動を強要する場合がありますのでトレーニングが活かされないままであったり、身につかないことも多いのが現状です。練習した場面と同じ機会があれば活かされることもありますが、多くの場合練習通りの場面には出くわすことは少なく、イレギュラーな場面に遭遇した時には臨機応変に対応することが難しいために練習成果が発揮できないこともあります。また、発達障害の特性の差が大きいために、他の人相手とどうしても合わせられない子もおり、その場合には大きなストレスに変化してしまいます。特に自閉症スペクトラムの子は、相手に合わせたり一緒の行動をするのが難しいことがありますので、その特性をしっかりと理解した上でトレーニングしていかなければなりません。
しかし、他の人との関係に重きを置いているソーシャルスキル・トレーニングに対して、ライフスキル・トレーニングは子供の生活を安定し人生を自分で歩んでいくためのスキルを養っていくことが目的です。そのため、人と合わせることをトレーニングするのではなく、その子にとって不足していたり大切になるライフスキルをトレーニングし習得していきますので、どんなパターンであっても柔軟に対応することが出来る上に、その子の特性に応じた対応をすることが出来ます。その子にとって必要なライフスキルを必要な分だけ身につけるようにトレーニングしていきますので、当然家族や周囲の人に助けを求めたりして協力してもらうことも可能です。
ライフスキルは自分の人生を自分で歩んでいくために必要なスキルであることは間違いありませんが、人に頼らないで生きていくという事ではありません。周りの人に助けを求めながらも、自分で出来ることは自分で行うということが根本になります。金銭感覚など大きなトラブルに巻き込まれないためにも、自分で考える力は必要ですが、周りの人と一緒に歩んでいくということを忘れないようにしましょう。発達障害の子の場合、特に自分で考えて臨機応変に対応していくことが困難な場合がありますので、苦手な部分や出来ないことは補ってもらえると理解していくことが大切です。
5、まとめ
生きていくために必要なライフスキルと対人関係を保つために必要となるソーシャルスキル。
どちらも生きていくためには必要不可欠なスキルですが、自分の人生を充実したものにするためにはライフスキルを高めることは非常に大切です。
私たちはどうしてもソーシャルスキルに重きを置きがちですが、正しい金銭感覚やストレスの回避、自己認識など低いと生活自体困難になってしまうライフスキルもありますので、その子にあったライフスキルをしっかりと整えてあげることが大切です。