発達障害の診断を行う際に、診断の1つの基準となるのが『知能検査』です。
『知能検査』はIQ検査ともいい、認知機能を調べる上でとても大切な検査になります。知能検査では知的な遅れがないか、年齢に相応の発達が行われているのかを知ることが出来ます。では、知能検査とはどのような検査なのでしょうか?発達障害の際にポイントになる知能検査について解説します。
目次
1、発達の程度を知るために行う『発達検査』
発達障害かもしれないと感じたり、乳幼児健診の時に発達の面で気になることがある場合には発達検査を受けることを勧められることがあります。乳幼児健診でも簡単なスクリーニング検査を行いますが、発達障害の確定診断を行う際には、専門的な機関で発達検査を行い、成育歴や問診、知能検査など総合的に判断し、診断を決定します。確定診断の中でも特に大きなウェイトを占めるのが『発達検査』です。
発達検査は名前の通り、子どもの発達の程度を調べ、様々な面からどのような事が苦手で困難なのかを知ることが出来ます。発達検査を行い結果を知ることで、子どもにどのようなサポートやプログラムが必要となるのか、親など周囲はどのように関わっていけばよいかを知るきっかけになります。特に療育を受ける場合には、発達検査の結果を参考にして療育計画を立て、サポートやトレーニングを行っていきます。
先ほど述べたように、発達検査の結果で発達の遅れがあったとしても発達障害と確定することは出来ません。発達検査は発達障害の確定診断で参考にされることには変わりませんが、発達検査以外にも成育歴や行動観察、知能検査といった様々な検査や方法で子どもの発達の程度をしっかりと捉えた上で、診断されます。
2、発達検査の際には『知能検査』を行うことが多い
発達障害の確定診断をする際に、発達検査以外に『知能検査』も合わせて行うことが多くあります。知能検査とは、物事に対する理解や知識、課題を解決するための認知能力を図るための心理検査の1つです。その子の得意なことや苦手なことを知るだけでなく、知能の発達の水準を客観的に調べることが出来ます。つまり、知能検査を受けることで、自分が平均と比べた時に苦手なものは何か、また逆に得意なことはなにかということを把握することが出来、それは支援や指導の1つの目安になっていきます。
知能検査では『IQ』という値が基本的な指標になります。IQはIateligence quotientを略したもので、知能指数を表す尺度として用いられており、他にも精神年齢や知能偏差値を併せて知能検査の結果を導きだします。IQの範囲としては、一般的には平均値を100として分類されています。
IQの分類は
70以下…知的な遅れがある(知的障害の可能性あり)
70-99…知的な遅れがあるかのボーダーライン
80-89…平均よりやや低い
90-109…平均
110-119…平均より高い
120-129…優秀である
130以上…極めて優秀
となります。これは一般的に言われている数値ですが、必ずしもこの数字が正しいとはなりません。知能検査にはたくさんの種類があり、知能についての測定方法や結果の導き方、結果の表しかたについては差があります。
IQには『比例IQ』と『偏差IQ』があり、それぞれ表す内容が異なります。
比例IQ…1912年にウィリアム・シュテルンが唱えた知能指数と精神年齢という新しい指標を取り入れ、精神年齢を生活年齢との比で求めたのが『比例IQ』です。以前は比例IQを一般的なIQとされていましたが、現在はIQの定義が検査方法によって異なったりと問題があるので、使われていません。
偏差IQ…偏差IQは知能検査の成績を一般的な相対評価の形で表現したものです。例えば、テストで50点をとったとしても、周りが100点であれば、50点はあまり良い点数ではありませんが、逆に50点であっても周りが10点であれば、その50点は良い点数になります。このように、単なる点数であっても周りの状況で変動してしまうことが考えられます。このばらつきをなくし、全体の平均を100、標準偏差15とし 同年齢の集団で自分はどの程度の発達であるのかということを数値化したものが『偏差IQ』です。現在IQという言葉は偏差IQを示すことが多くなります。
このように、知能検査は人の認知機能の発達の程度を調べることが出来る検査ですので、発達障害の確定診断を行う際の1つの参考にすることが多くあります。知的な遅れがある場合には療育手帳が交付され、療育や通級指導などでの支援計画に反映されます。また、知的な遅れがないとしても苦手な分野であったり、学習面で困難なことがある場合にはそれを支援計画や指導案に取り入れていき、子どもへ最適なサポートを行うことが出来ます。
3、『知能検査』の種類・費用とは?
認知機能の発達の様子や、苦手な事や得意な事を把握するために活躍する知能検査。知能検査といっても、実は1種類ではなくたくさんの種類があります。
日本では学校教育が一般化した時には、子どもの個性や特性に応じた教育方法ではなく、一斉に学習を行っていました。しかし、学習で困難な場面に遭遇する子どもが多くなり、個性や特性に応じて教育していく必要があるとされ、知能検査の原型となる知能の測定方法などが考案されるようになりました。
現在は、ウェクスラー式知能検査を筆頭に多くの知能検査が開発されています。代表的な知能検査は以下になります。
【ウェクスラー式知能検査】
知能検査の中でも最もポピュラーな検査が『ウィクスラー式知能検査』です。
ウィクスラー式知能検査は、子どものみならず大人も検査することが出来ますので、幅広い年齢に対応している知能検査です。
ウィクスラー式知能検査は年齢に応じて検査の種類が異なります。
幼児期 | 児童期 | 成人期 | |
知能検査名 | WIPPSI(ウィプシ) | WISC(ウィスク) | WAIS(ウェイス) |
適用年齢 | 3歳10か月~7歳1カ月 | 5歳0カ月~16歳11ヵ月 | 16歳~89歳 |
実施時間 | 60分 | 90分 | 90分 |
日本版 | WIPPSI‐Ⅳ(第4版) | WISC-Ⅲ(第3版) | WAIS-Ⅲ(第3版) |
このように、それぞれの検査で適用年齢や実施時間が異なり、それぞれの時期に最適な検査内容が作られています。ウェクスラー式知能検査は精神年齢は算出されず、偏差IQが算出されます。WISでは言語理解指標、知覚推理指標、ワーキングメモリ指標、処理速度指標などが算出され、IQも各指標も平均が100になるように作られています。このことによって、平均の100を基準にしてその子どもの得手、不得手を把握することが出来ます。
【KABC心理・教育アセスメントバッテリー】
『KABC心理・教育アセスメントバッテリー』は子どもの知的能力を認知処理過程と知識・技能の習得の程度の両方を参考にし分析されます。このことから、子どもの得意とする知的活動は何かを総合的に見つめることが出来、教育上のサポートの基盤にすることが出来ます。また、KABC心理・教育アセスメントバッテリーでは、障害がある子どもだけでなく、障害がない子どもに対しても、内面をプロフィール分析を行い詳細に評価することが出来るのも大きな特徴です。検査の結果に元づいて、子どもの教育や指導のための指導案を作成し、どのような指導を行っていけばよいかを簡潔に知ることが出来ます。
適用年齢 | 2歳6カ月~18歳11ヶ月 |
実施時間 | 30分~60分 |
【田中ビネー知能検査】
日本で行われる知能検査で、『田中ビネー知能検査』も代表的な知能検査の1つになります。1947年に心理学者の田中寛一さんが考案した知能検査で、小さい子どもにも適切な検査が行えるように、積み木などのおもちゃなどを使用したり、絵本のような図版を採用しています。
ビネー式では、各年齢の子どもたちを観察し、年齢に応じた問題を作ることによってその子どもの発達はどの程度を知る『年齢尺度』を一つの指標とし、具体的にどの項目が出来ていない、出来ている、という判断を明確に表すことが出来ます。『発達が平均よりも遅れている』と言われても、親はどのようなサポートやケアをしたらよいかわかりにくいですが、田中ビネー知能検査では、何が出来ていないか、ということを示してくれますので、その子の苦手な事に対してしっかりとアプローチをすることが出来ます。
中でも田中ビネー知能検査は、現在知能検査を行う時は『田中ビネー知能検査Ⅴ』がメインになっています。何度か改訂されている田中ビネー知能検査ですが、2005年以降は田中ビネー知能検査Ⅴで、適応年齢は2歳から成人と広くなりますが、特に小学校就学前の5~6歳を重点的に調べることが出来ます。年齢にもよりますが、現在、発達障害の確定診断の際には『田中ビネー知能検査Ⅴ』を行うことが多くなります。
適用年齢 | 2歳~成人 |
実施時間 | 30分~60分 |
【DN-CAS認知評価システム】
? 『DN-CAS認知評価システム』は5歳から17歳までの認知処理過程の特徴を調べることが出来る知能検査です。DN-CAS認知評価システムを再検査をすることで、長期的に子どもの発達の様子を知ることが出来たり、認知機能の特徴や変化を調べることが出来ます。
DN-CAS認知評価システムでは『プランニング(P)』『注意(A)』『同時処理(S)』『継次処理(S)』という4つの認知機能である『PASS』の側面から子どもの発達の様子を調べますが、視覚的知識や言語的知識に頼らず認知活動の様子を評価することが出来ます。そのため、新しい課題を明確にしたり、自閉症スペクトラムの中でも高次機能自閉症や学習障害(LD)といった障害の認知機能の偏りや傾向を捉えサポートに生かせます。
適用年齢 | 5歳~17歳11ヶ月 |
実施時間 | 40分~60分 |
【レーブン色彩マトリックス検査】
神経心理学の中では有名な『レーブン色彩マトリックス検査』ですが、言語能力に頼ることなく検査を行い、認知能力や推理能力を調べることが出来ます。
レーブン色彩マトリックス検査の課題の特徴は、言語能力に頼らないということで、図形のかけている部分と適合するのはどれか、というように目で見て問題を考えることが出来ますので、失語症や認知症などの検査にも多く採用されている知能検査です。
レーブン色彩マトリックス検査は、子どもを対象としていない知能検査で、適用年齢も45歳以上になります。課題が36問なので、簡単な上に短時間で終えることが出来るというのも大きなメリットになります。
適用年齢 | 45歳以上 |
実施時間 | 10分~15分 |
このように、知能検査といってもたくさんの種類があります。基本的に知能検査は低年齢から検査をすることが出来るものが多いですが、中には『レーブン色彩マトリックス検査』のように、45歳以上と大人のみの検査もあります。
現在は発達障害も子どもだけでなく、大人も確定診断されることが多くなってきていますので、幅広い年齢の認知能力を捉えられるようになってきています。
子どもの場合、知能検査を受ける時は病院や専門機関が検査が必要と判断した時になりますので、保険内診療になり、費用は1350円となります。これに、別途診断書の費用が各病院でかかってきますので、診断書と検査費用の自己負担額は薬5000円~7000円程度になります。診断書の負担額はそれぞれの機関や病院で異なりますので、直接問い合わせをしてください。
しかし、中には知能検査が必要ないけれど保護者の希望で行ったり、保険診療を行っていないクリニックなどで検査を受ける場合であれば、全て自己負担になりますので約1万円~2万円になります。
まずは知能検査による診断が必要になるのかを相談し、必要であれば検査を受けるための手続きをとりましょう。中には、予約が中々取れず発達障害の確定診断が遅れてしまう場合もありますので、時間に余裕を持って情報収集をしたり発達障害について相談することが大切です。
4、知能検査の検査形態
知能検査には、様々な形式の検査方法があり、それぞれに大きな特徴があります。障害の特性や子どもが集中して取り組むことが出来る検査形態を選択することが大切です。
【A式検査】
言語能力が大きく検査結果に影響していくるのがA式検査です。文章題が多く、社会生活面での知能を測ることが出来ますが、母語が日本語でない場合など言語能力が乏しいと正確に測定出来ず、低く数値が出る可能性があります。
【B式検査】
一部が欠けている図形に対して、当てはまるパーツはどれかというように、図形や数字など理数的な問題が多いのがB式検査です。A式検査のように言葉による回答が少ないので、A式検査の問題点を補うことが出来ます。元は外国の移住者を対象に作られた知能検査の形式でしたが、現在は言葉の発達が十分でない子どもでも受けられるために、学校でも一般的に使用されている検査形態です。言語能力の影響は受けにくいですが、最初に監督が試験方法などを指示されその指示に従わなければならないので、聞き取り能力などは必要になってきます。
【Ab混合式検査(C式検査)】
言語能力による回答をベースとしたA式検査と、図形や数字など理数的な回答をベースとしたB式検査をそれぞれ取り入れたのが、AB混合式検査(C式検査)です。易しい問題から難しい問題に至るまで、幅広い難易度の問題を作ることが出来ます。
【集団式検査】
学校などの大勢の人が知能検査を行うための筆記式検査のことを指します。一般的な試験と同じく、教室の机で行われます。集団式検査で気になる面や特徴的な結果が出た場合には、個別式検査で再検査をします。
集団式検査は小学校の就学の際に行われる『就学時知能検査』があり、就学時知能検査は入学してくる児童の発達の程度や偏りを把握するために行われます。この結果も就学先(通級指導教室や特別支援学級など)の個別指導案へ反映され、支援や指導の参考にされます。基本的には45分程度の試験時間で、費用は500円程度になります。
【個別式検査】
一斉に調べる集団式検査で気になる点や偏り、特徴的な結果が出た場合には個別での検査へ移ります。個別式検査は検査官と児童が1対1で話をしながら、様子や状態を観察し検査していきます。積み木や絵カードなどの道具を用いながら、子どもの発達の様子を細かく観察し状態の把握をします。
このように、検査方法といっても形式から方法に至るまで多くの選択肢があります。発達障害の確定診断や、就学後の指導案の作成のための知能検査となると現在は個別式検査が主流になっています。
5、まとめ
発達障害の確定診断の際に、ポイントになる知能検査。知能検査は人の優劣を調べるためのものではなく、知能検査を元にその子どもにとってどんな学習が得手・不得手なのかということを総合的に把握し、支援や指導に活かしていくことが目的です。ですので、知能指数が高いから優秀で低いから優秀ではないということではありません。知能という概念に関しても、曖昧になっていますので知能指数もあくまでも1つの指標でしかありません。
当然、発達障害の確定診断も知能検査のみで診断を下されることはなく、発達検査や行動観察、知能検査などを客観的、総合的に判断されます。知能検査の結果を元に、知的な遅れが顕著にある場合であれば療育手帳の交付のきっかけにもなりますが、優劣を決めるものではないということを知っておかなければなりません。
現在、ウェクスラー式知能検査が代表的な知能検査になりますが、施設によっては他の知能検査を行うことが出来るので、気になる検査がある場合には1度問い合わせしてみましょう。