発達障害を抱える子どもの親は、将来就職が出来るのかという不安を抱えていることがあります。社会生活を送る上で、就職をして仕事を行っていくことは、充実した生活を送るために非常に大きなウェイトを占めています。発達障害がある子どもは自分の特性による強みや弱みを理解し、自分に合った仕事を見つけることが大切です。では、発達障害がある子どもは就職をする上で、どのような選択肢やメリットデメリットがあるのでしょうか?発達障害での就職について詳しく解説します。
目次
1、特性により社会に出ても苦労することが多い発達障害
発達障害は、脳の機能障害によって様々な特性があります。こだわりが強かったり、コミュニケーションをとることが苦手であったり、環境や習慣の変化についていくことが難しかったりと苦手とする場面もありますが、その一方で好きなことに関しては集中力が人並み以上であったり、自分のペースを崩さずに作業を行えたりと得意な面も多くあります。
発達障害の種類によっても異なりますが、代表的な得意なことや苦手なことは以下になります。
発達障害名 | 得意なこと | 苦手、困難なこと |
自閉症スペクトラム | ・真面目て几帳面にこなすことが出来る | ・自然とルールや空気を読むことが出来ない |
・感じたことや思ったことをすぐに行動に移すことが出来る | ・計画性を持って行動することが難しい | |
・図形などの視覚情報に強く記憶力が良い | ・集団でコミュニケーションをとって行動することが苦手 | |
・好きな事への知識が豊富 | ・好きな事と嫌いな事の差が大きい | |
注意欠陥多動性障害 | ・集中力が高い | ・曖昧なことを自分で判断することが難しい |
・好きなことへの知識が豊富で結果を出しやすい | ・集中力が持続しづらい | |
・クリエイティブな発想をする | ・衝動的に行動してしまう | |
・集中力が高い | ・好きではない事をするのに苦痛を伴う | |
・マルチタスクを苦手とする |
上記にもあるように、発達障害は得意なことと苦手なことの差が大きく表れることがあります。発達障害は個人差がありますので、上記のことが得意、不得意でない場合もありますので、まずはどのようなことが得意であって、どのようなことが不得意なのかを把握することが大切です。
発達障害を抱えている子どもは、その特性により学校生活や就職してから苦労することが他の人よりも多い場合があります。例えば、自然と場の空気を読むことが苦手であるために、良い人間関係を築きづらかったり、努力をしているのにミスが多く叱責されたりします。現在は大人の発達障害と認知されていることが増えて生きていますが、まだまだ深い理解には繋がっていません。ですので、周囲からは『仕事が出来ない人』『ミスが多い』と理解してもらうことが出来ず、精神不安やうつといった二次障害へ発展する可能性もあります。
当然誰しも得手不得手はあり、仕事や学校生活で悩みや不安を抱えています。しかし、発達障害の場合だと『出来ない=努力不足』ではなく、どう努力しても難しい場合があります。そのため、必要なサポートや作業の工夫をしていくことで、きちんと仕事を行うことが出来ます。それと共に、周囲による発達障害の特性の理解が充実した社会生活を送る上では必要不可欠になってきます。
2、就職をする時に重要は『一般雇用』か『障害者雇用』か
障害を持つ人の就職での選択肢は『一般雇用』か『障害者雇用』があります。就職活動を行う上で、この選択は非常に大きな選択になりますので就職活動を行う前にしっかりと違いを理解しておくことが大切です。
【一般雇用】
一般雇用とは、障害の有無に関わらず同じ条件で雇用されることを指します。障害がない人と同じ条件で雇用されますので、障害については自分から公表しない限り周りに知られることはありません。特に発達障害の場合、知的な遅れも少なく、外見上でも障害があるかはわからないので、周囲に理解してもらいたいと思ったら自分で障害について理解してもうために障害について説明をしなければなりません。
メリット
・全員同等の待遇が用意されており、キャリアアップも可能
・興味があることに人並み以上の集中力を発揮する発達障害の場合、最適な職場であれば昇進やスキルを身につけることが出来る
・求人数が圧倒的に多い
・多種多様な職種につくことが出来る
デメリット
・自分の就きたい職場や部署以外に配属されることもあり、そうした場合適応しにくく仕事が辛くなる場合がある
・コミュニケーション能力を求めている職種の場合は、発達障害の特性上不利なことが多い
・発達障害を公表せずに働いていると、苦手なことでもしなければならないので精神的な負担が大きい
・公表していないと、人間関係で悩んだりどうしても出来ないことを理解してもらうことが難しい
【障害者雇用】
障害の有無に関わらず平等な条件で雇用される一般雇用に対して、障害者手帳を取得した上で、障害について周囲の人からサポートしてもらったり配慮を受けながら働くことを『障害者雇用』と言います。障害者雇用は『身体障害者手帳』『療育手帳』『精神障害者保健福祉手帳』のどれかを取得している時に適用されます。
一般雇用のように自分で公表することなく、周囲から障害についての理解を得た上で働くことが出来ますので、苦手なことや困難な事に関しては必要な支援をしてもらうことが出来ます。しかし、雇用面や待遇面はまだまだ一般雇用に比べると低いことが多いのが課題になります。
メリット
・障害の特性に応じた配慮や支援を受けつつ仕事を行うことが出来る
・発達障害の特性を活かした求人もあり、スキルを向上しやすい
・様々な雇用形態(パートや契約社員など)を選べる所が多いので、自分に合った選択をすることが出来る
・正社員への昇進をすることが出来る企業も増えてきている
・周囲の人が障害についての理解が深い
デメリット
・一般雇用に比べるとどうしても給与面が低い傾向にある
・障害があるために、長年勤めても業務内容が同じままのことがある
・求人数が少なく就職をするのが難しい
・障害があるということで、職種が限られていることがある
一般雇用と障害者雇用は、それぞれメリット・デメリットがありますが、発達障害の場合どちらの選択もすることが可能です。一般的に知的な遅れをともなわない発達障害であれば、他の人と同様に仕事をこなすことが出来ますし、ある程度はカバーすることが出来ます。しかし、社会生活では同期だけでなく上司などとも上手く付き合っていかなければなりません。コミュニケーションをとるのが苦手という特性がある場合には、一般雇用で就職しても人間関係でつまづいてしまう可能性があります。障害を公表したくない人もいるでしょうし、障害を公表しても深い理解を得ることが出来ず最適なサポートや配慮をしてもらえなかったために、仕事が辛くなってしまう可能性もあります。
障害について理解をしてもらえない環境で仕事をしていった時に、うつや精神的な不安が強くなってしまうなど二次障害を併発してしまうことも考えられます。
逆に、現在は企業によって障害について理解を深め、障害者雇用の労働環境の改善をしている所も出てきているものの、給与面や業務内容に変化がないことが多く、一般雇用に比べると低いことがあります。多くの企業が様々な障害について理解を深めていき、障害者雇用も一般雇用と同じようにスキルアップを行ったり、給与面の待遇を改善していくことが求められます。
障害者の就職や労働環境は年々改善されつつありますので、子どもが成長していく過程で、現在の就職についてはどんな環境下なのかをしっかりと判断しておくことが大切です。
3、発達障害の強みは就職で有利になることもある
発達障害は就職面や仕事をスタートした時に苦労したり、苦手なことが仕事内容であるとなかなか出来ないために、上司との関係が上手くいかなかったり仕事が出来ないと間違ったイメージをつけられてしまいます。しかし、実際は発達障害の特性は職種によってはとても向いている場合があります。例えば、好きなことや得意なことに対しての集中力や知識が高いために、スキルアップや集中して効率よく仕事をこなすことが出来ます。
また、マイペースで仕事を行うことが出来るので、周囲に影響されずに続けることが出来る特性を持っている人もいます。発達障害が持つ特性は仕事で重宝されることも多くありますので、その子の持つ特性をしっかりと把握すると、就職面でアピールする強みになることもあります。苦手なことや得意なことをしっかりと理解しておくと、どのような職種が向いているのか、苦手なことはどう対処すれば良いかを事前に考えることが出来ます。
「発達障害だから就職には向いていないのではないか?」と親としては心配になったり、社会に出て大丈夫だろうかと不安になることは当然ありますが、その子の持つ特性を理解、把握していくことで解決に糸口になっていくでしょう。また、就職先を探す時も向いている仕事を探したり、得意な事を仕事に出来る企業を絞って受けることが出来るので、就職をした後も長く続けることが出来ます。
また、小さい時から発達障害の特性の中でも得意なことを伸ばしていくことは非常に重要です。小さい時から培ってきた特技は、将来就職で多きな強みになる可能性が出てきますので、出来ないことをサポートしていくことも重要ですが、得意なこともしっかりと伸ばしていけるように配慮していくことが大切です。
4、将来を見据えての早期療育が大切
発達障害は以前は認知度が低く、障害を抱えていると診断されているのは身体障害者や知的障害といった外見で判断出来たり、知的な遅れが見られる人に限定されていました。しかし、近年は発達障害という外見は障害の有無はわからないけれど、コミュニケーションが上手く取れなかったり、感覚に偏りが大きい障害について取り上げられることが増えてきたために、『発達障害』という障害が多くの人に認識されるようになりました。
発達障害は先ほど述べたように、外見などでは判断できないので周りから見たら他の人と何も変わらないように見えます。生まれつきの脳の機能障害であるものの、生まれた時には障害がわかることはなく成長過程で発達の遅れが見られたり、他の子どもとうまくなじむことが出来ない、集団行動が苦手という特性が見られた時に発達障害かもしれないと気が付くことが多くなります。
乳幼児健診で発達についてのスクリーニング検査を行いますが、それで気になる面が見られた時には専門機関を紹介され発達障害について診断を行います。また、保育園や幼稚園に通園している場合であれば、保育士から発達について気になる面があるために検査を受けて欲しい、と伝えられることもあります。
年齢によって発達障害の特性が目立つ時があり、注意欠陥多動性障害や学習障害などであれば、小学校に入学して学習がスタートしてからや、就学前検査で判明することもあります。発達障害の中でも知的障害などを伴っている場合であれば、小さい時に気が付くこともありますが、多くは3歳以降に発達の遅れが目立ってきて発達障害と診断されることが多くなります。
しかし、現在は発達障害を早期に発見していくことで、療育を行いその子が持つ特性で困難なことや苦手とすることを自己理解し、サポートやトレーニングを行っていくことが推奨されています。療育は、子どもが自分の困難なことに対処していく方法や、トレーニングを行い克服していったり、親が子育てで悩んでいることなどにも、悩みについて丁寧に教えてくれます。療育は出来るかぎり早期に行っていくことで、柔軟に対応する力によってサポートやトレーニングに高い効果を得ることが出来ると言われています。
療育を行うことで、将来社会に出た時に自分が苦手なことに対して工夫をし対処することが出来たり、周囲に助けを求めたりと自己解決する力を養うことが出来ます。そして、発達障害は療育や通級指導などを行うことで、周りの人と一緒に上手く人間関係を形成することが出来るようになったり、苦手な事も克服、改善することに繋がります。療育機関は発達障害の確定診断を受けた時や、自治体の子育て支援課などに相談すると詳しく教えてもらうことが出来ますが、申請方法などはそれぞれの施設や機関で異なりますので事前に自治体の相談窓口で相談しておくとよいでしょう。発達障害の子どもが充実した社会生活をおこなうためにも将来を見据えて早期療育を行うことが大切です。
5、 まとめ
発達障害はコミュニケーションをとることが苦手であったり、自分のペースではなく周りに合わせて行動したりすることが苦手な場合が多くなるので、就職は困難なのではないかと思ってしまいますが、発達障害の特性は企業としてもとても有利な場合があります。困難な事が予めわかっている場合であれば、サポート方法や困難な事に対して対策を練ることが出来ますし、得意なことを強みに就職するためのアピールポイントにすることが出来ます。
発達障害は発達の偏りが大きくなりますが、早期療育を行うことで緩和したり克服することが出来ます。そのためにも発達の面で気になることや困難なことと得意な事の差が大きい時などは、保健センターや保育士、自治体の相談窓口へ相談してみることが大切です。早期療育を行い自立した社会生活を送るきっかけに繋がっていきます。