発達障害の書籍などを読むと、必ず『二次障害』という言葉が出てきます。
では『二次障害』とは、どのような障害の事を指すのでしょうか?
今回は発達障害における二次障害についての種類や内容を解説します。近くの人が二次障害に悩んでいる時や、発達障害の子どもが近くにいる場合など、是非参考にしてください。
目次
1、二次障害とは発達障害が原因で起きる後天的障害
こだわりが強かったり、相手に合わせることが出来ない、自分の思いを言葉でうまく伝えられない、衝動的な行動をしてしまうなど、発達障害には実にたくさんの特性があります。一般的には、知的な遅れが見られ言葉が遅かったり、こだわりが強く対人関係が苦手な場合が多い『自閉症スペクトラム(ASD)』、集中を持続することが難しかったり、衝動的に行動をしてしまう、じっとしていられない『注意欠陥多動性障害(ADHD)』、知的な遅れがないものの他の人とうまく付き合うことが難しかったり、こだわりが強い『アスペルガー症候群(現在は自閉症スペクトラムに含まれる)』、全ての学習能力ではなく『読む、書く、計算する、聞く』の中から一部の能力が著しく困難である『学習障害(LD)』を発達障害としています。
発達障害はその特性の個人差の大きさから、『この特性があるからこの障害』と明確に誰でも判断が出来るものではありません。障害によって大きな特性はあるものの、それは他の発達障害にも該当するものであったりと非常に複雑です。脳の機能障害である発達障害は、障害名は異なっても似た特性があるのです。現在は、発達障害の特性についての理解も得られることが増えてきましたが、まだまだ認知度は低く偏った考えや、間違った特性を覚えていて勘違いしている人も大勢います。
発達障害の子どもたちは、その特性によって親や教師から怒られることが多かったり、日常生活で大きなストレスを感じてしまう、学校で友達からからかわれたり、仲間外れにされてしまうといった、失敗や挫折を経験するリスクが他の子どもに比べると高くなります。『どうしても他の人のように上手く出来ない』『努力しているのに周りに理解してもらえない』『仲良くなりたいのに、上手くいかない』といった大小様々な挫折を経験していくと自己否定に繋がり、『自分はどうやっても出来ない』『自分はダメなんだ』と自信を失ってしまいます。そういった経験が積み重なることで、頭痛や腹痛といった身体的な症状や、不安や躁鬱、興奮状態といった精神的な症状が起きてしまいます。この症状のことを『二次的な問題=二次障害』と言います。
一次的な問題である発達障害が原因が引き金となって起こる、二次的な問題の事で、発達障害に加えて深刻な状況に至ります。二次障害を発症してしまう原因は様々ですが、心が深刻なストレスやダメージを長い時間受けたために起きてしまうことは明確になっています。
発達障害に加えて二次障害を発症することで、さらに悪循環に陥ってしまい、不登校や引きこもり、自傷行為などを起こしてしまう可能性があります。発達障害についての理解を周りがすると共に、心のケアもしていく必要があります。
2、発達障害における主な二次障害の種類
発達障害における二次障害としては、身体に症状が現れる身体症状と気持ちや心の中に症状が現れる精神症状の2種類があります。
身体症状と精神精神症状の主な症状としては
身体症状…腹痛、胃痛、食欲不振、チック(まぶたをピクピクさせたり身体を無意識の内に動かしてしまう病気)、脱毛癖、暴力、パラフィリア(性的倒錯)など
精神症状…うつ、過度な不安、無気力、依存、不機嫌、反抗、興奮状態など
があります。二次障害は子どもの特性によって、どのように表れてくるかは異なります。例えば注意欠陥多動性障害の特性である、注意不足や集中力に欠ける場合には不登校や自律神経系の症状に現れることが多くあります。また、上手く言葉で伝えることが出来ずお腹が痛くなったり、どうしても学校に行きたくなくなったりすることもあります。
逆に注意欠陥多動性障害でも衝動性が強い場合には、非行やパラフィリア(性的倒錯)などに走る可能性があります。もちろん注意欠陥多動性障害であれば、必ずこの二次障害が起きるというわけではありませんので自己判断せずに、気になる症状が出た場合には医師に相談するようにしましょう。
◇二次障害で起きやすい病名
・チック症…突発的で不規則な身体の一部が早く動いてしまったり、言葉を発声してしまいます。首振りや回数の多い瞬き、肩をすくめるといった身体に表れる時と、咳払いや唸り、言葉の繰り返しといった言葉に表れる場合があります。比較的年齢が低い男の子に起きやすいと言われています。
・トゥレット症候群…チック症で起きる言葉と身体の症状が一緒に表れることを言います。成人を迎えるまでに治まることが多いです。
・うつ病…うつ病は言葉では表現できないくらいの辛い気分や落ち込んでしまったり、将来や先のことに漠然と強い不安に襲われてしまう等、行動をするという意欲の著しい低下が見られます。脳の働きに何らかの問題が起きていることが考えられますが、うつ病になるきっかけは様々で、大きなストレスや生活環境が起因していると言われています。
・パラフィリア(性的倒錯)…性的な嗜好に偏りが見られることを指します。
3.二次障害を起こしやすくなる原因6点
発達障害を持っている子どもが必ずしも二次障害を起こすというわけではありません。しかし、発達障害の特性が故に日々の生活や対人関係で悩み強いストレスを感じてしまい、二次的な問題(二次障害)を発症してしまいます。二次障害を必ず起こすのではありませんが、定型発達の人に比べると二次障害を起こしやすい要因があるということになります。では、発達障害の人が二次障害を起こしやすい原因とは何があるのでしょうか?
①親や近親者、友人が障害について認め理解してくれない
発達障害は周囲の理解が必要不可欠です。発達障害の特性をしっかりと周囲が理解し支援やトレーニングをしていくことで、自己肯定感を高めて成長していくことが出来ます。しかし、親や近親者、友人が障害について理解してくれなかったり、一番理解して欲しい保護者が障害を認めサポートをしてくれないと、そのストレスから二次障害を発症しやすくなってしまいます。
また、発達障害の子どもはその特性で小さい時から怒られることが多かったり、批判されたりすることが多く自己肯定感が低い傾向があります。発達障害の子どもも、周りの子と同じように出来ないもどかしさや辛さをとても感じていますので、保護者や友人が障害について理解してもらえない環境は非常に大きなストレスになります。
②保護者がうつ病であったり、発達障害である
保護者がうつ病であったり発達障害の場合も、二次障害を起こしやすくなると言われています。特にうつ病などの場合には、発達障害の子どもを受け入れることが出来ずに虐待やネグレクトに走ってしまうリスクもあります。障害を理解されずに心身共に大きなストレスを長期間受けてしまうということは、二次的な問題を起こす可能性を高めてしまいます。
③機能不全家族であったり、複雑な家庭環境
家庭環境は子どもの成長に大きく関係しています。家族が集まることで、正しい物の考え方や認識の仕方、保護者を見本としてしてはいけないことなどの道徳的な考えを学ぶことが出来ます。そういった家庭環境で育った子どもは、社会生活で生き抜いていくためのスキルを身につけていき、善悪の判断もしっかりと出来るようになります。
それとは反対に、機能不全家族というのは、家庭内で弱い立場である高齢者や子どもが、虐待やネグレクト、家族内の不仲、貧困、子どもへの過度な期待といった大きく強いストレスを感じ、精神的にも身体的にも大きなダメージを受けてしまう家族環境のことを指します。機能不全家族で育った子どもは強いストレスやトラウマから、自己形成が歪んでしまったり、対人関係が上手くいかないなど、生き辛さを感じてしまいます。
発達障害の子どもは特性から生き辛さを感じることが多くありますので、機能不全家族でなおかつ発達障害がある場合には二重のストレスを感じることとなり、二次障害のを発症する引き金に繋がってしまう可能性があります。
④学校内でのいじめや仲間外れといった対人関係の悩み
発達障害の中でも特に思春期に悩むのが対人関係です。友人とうまく付き合うことが出来なかったり、ストレートに物事を言ってしまうために嫌われてしまったりすることがあるので、対人関係が上手くいかずふさぎがちになってしまう可能性があります。特に発達障害の子どもは周囲の雰囲気を読むことが苦手である場合が多いので、『変わっている』『変な子』と言われ、からかわれたりのけ者にされたりしていじめられたり、ライフスキルの不足を逆手にとって標的にされることがあります。友人に理解されない辛さと、みんなと仲良く出来ないもどかしさに悩み精神的なダメージを大きく受けることになり、二次障害の原因になります。
⑤社会からの孤立やゲーム、インターネットへの依存
社会生活は非常に大切で、自分が社会から認められているという肯定感を維持することが出来ます。しかし、発達障害の人は仕事が上手く出来なかったり、特性によっては苦手な分野だとミスが多かったりして、上司や取引先から叱責を受けたり、『仕事の出来ない人』と言われることがあります。学生の場合、アルバイトなどでミスが多く点々とバイト先を変わっていたり、対人関係が上手く出来ないために孤立してしまうことがあります。そういった時に、ゲームやインターネットといった二次元に走り、依存してしまうことで外出する意欲が低下してしまう等二次障害を起こしてしまう可能性があります。
⑥日常生活が不規則であったり睡眠障害がある
発達障害の子どもは、ライフスキルが不足していることがあります。金銭感覚が育っていなかったり、危機管理能力が低かったり、規則正しい生活を送ることが出来ていない場合があります。特に睡眠覚醒リズムが乱れていると、起きている間もイライラしたり気分が落ち込んでしまうなど、精神的に安定せず二次障害を起こすきっかけになってしまうことがあります。
発達障害の子どもが二次障害を引き起こす主な原因を解説しましたが、実際には他にも大きな理由があったり複数の原因が重なったために発症する場合もあります。発達障害は個人差がありますので、必ずしもこの原因や要因があれば、二次障害を起こすということはありませんが、周囲の理解が得られなかったり、家庭環境に問題がある場合には二次障害を引きおこすリスクは高くなりますので注意が必要です。
4、まとめ
その持ち合わせた特性により生き辛いと感じることが多い発達障害の人は、長期間大きなストレスを感じたまま生活をすることで、二次障害が起きてしまうことがあります。二次障害を防ぐためには周囲の理解が大切で、特に一番身近にいる家族の理解は必要不可欠になります。
一時的な障害である発達障害に比べて、二時的な問題である二次障害の方が精神的にも身体的にも負担が大きくなります。発達障害がある人が必ずしも二次障害を起こすことは限りませんが、リスクが高くなるということをしっかりと覚えておきましょう。二次障害を防ぐためには、周囲の理解に加えて療育などを通してライフスキルやソーシャルスキルをトレーニングしていくことが大切です。