発達障害を持っている子どもは、思春期以降に二次障害を発症しやすいと言われています。
発達障害の特性を周囲が理解してくれなかったり、自分の中でも対応が出来ないことで大きなストレスがかかり、身体だけでなく心にも大きな負担がかかってしまいます。
では、二次障害を防ぐためにはどうすれば良いのでしょうか?二次障害の予防法について詳しく紹介します。
目次
1、思春期以降に起こりやすい二次障害
発達障害には自閉症スペクトラムや学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)がありますが、そのによって日常生活を送る時にみんなと同じことが出来なかったり、叱責されることが多くあります。そのため、『自分は出来ない子だ』『どうせ自分なんて…』と自己評価が低い傾向にあります。また、自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)や注意欠陥多動性障害(ADHD)の場合、相手の気持ちを考えないで自分の思いを言ってしまったり、周囲の空気を読むことが出来ずに対人関係で悩むことも多くあります。対人関係が上手くいかないと、仲間外れにされてしまったり、一部の人から標的にされいじめに発展することもあり、生活を送る上で大きなストレスや不安を感じてしまいます。
その著しく大きな不安を抱えたまま生活を送っていくと、抑うつや不安障害、チック症や自傷行為といった『二次的な問題=二次障害』を発症することがあります。二次障害は小さい時には発症することはまずありませんが、思春期以降は発症するリスクが高くなります。中でも発達障害と大人になるまで気が付くことがないまま成長し、二次障害で悩み病院を受診した時に発達障害がわかるケースもあります。
二次障害は1つの出来事が原因で発症するのではなく、長い期間発達障害の特性を理解されなかったり、自分でも障害があると気が付かないまま生活を送っていったために、適切な支援やトレーニングを受けることが出来なかったり、自分に合わない環境で生活をしたり、自己肯定感が低い場合に発症する可能性が高くなります。二次障害は発達障害がある人が必ず発症するわけではありませんが、いじめや仲間外れにされた経験や、辛い体験の積み重ねによる大きなストレスがあると発症する可能性があります。
2、二次障害を防ぐには思春期までの対応が鍵
必ずしも発達障害がある人が、二次障害を発症するとは限りませんが、先ほど解説したように発達障害の人は二次障害を発症するリスクが高くなります。発達障害が故の二次障害を防ぐには、どうすれば良いでしょうか?
二次障害を防ぐためには、思春期になるまでの対応が鍵となります。思春期は心身共に様々な葛藤が繰り広げられます。思春期になると発達障害の人はいじめの対象にされたり、他の人と同じことが出来ないことや周囲の視線に敏感に感じてしまうようになります。思春期になるまでに、自己認識を高めたり、ライフスキル、ソーシャルスキルをトレーニングしていくことで、二次障害を予防することが出来ます。
また、二次障害を予防するには、周囲の理解が重要になります。発達障害の特性を周囲の人が理解し、支援していくことで、お互いが理解できないストレスを解消することが出来ますし、本人も自分を理解してもらえているという安心感を感じることが出来ます。発達障害の人に対する関わり方や、特性の理解、環境を整えていくことも大切です。また、学校の対応も重要で発達障害に理解がある教諭や学校であれば、普通学級や通級学級こういった理解や関わり方を進学するまでの段階で知ってもらうことで、二次障害を予防することに繋がります。
また、周囲が関わり方や特性を知ってもらうなど他者が工夫することも大切ですが、発達障害を持っている本人もの心のサポートと成長を促すことも大切です。
自分が持っている障害の特性を理解すると共に、出来ないことはいけないことではないという肯定感を持てるようにサポートしていくことが必要になります。そのためには、ライフスキルだけでなくソーシャルスキルも一緒にトレーニングしていくことが重要です。自己肯定感を高め自己否定の感情を出来る限り減らしていくようにすることが、二次障害の予防になると考えられます。
3、二次障害かもしれないと思ったらどうすれば良い?
二次障害かもしれないと感じた場合には、まずはかかりつけ医や、発達障害者支援センターなどに相談しましょう。発達障害は生まれ持った脳の機能障害になりますので、特性を理解しサポートしたりコントロールして自立することは出来ますが、根本的に治療して完治することは出来ません。しかし、二次障害に関しては明確な治療が必要になります。ですので、まずはかかりつけ医や専門医に相談し治療を開始することが大切です。
うつや不安障害といった精神的な二次障害の場合であれば、精神療法(※1)や認知行動療法といった心理療法によって治療を行っていくと共に、家族に対する家族療法や薬物療法も合わせて行っていきます。暴力や非行などの身体的な二次障害の場合であれば、その攻撃的な感情をコントロールすることと、一度家族を危険から守るために入院して薬物療法や精神療法を行っていきます。
二次障害がどのようにして現れているのか、その障害の重さや本人の精神状態などを判断した上で、その人に合った最適な治療を行います。しかし、二次障害だからと言って医療機関に全てを任せておいたら良いのではありません。医療機関の二次障害の治療は、あくまでもサポートの一環でしかなく、家族や友人、学校、児童福祉機関などがしっかりと密な連携を図っていき、サポートしていくことが最も重要になります。
(※1:二次障害の治療方法一覧)
認知行動療法 | ものの考え方や受け取り方である『認知』に働きかけることで行動や感情をコントロールしていく治療方法。 |
精神療法 | カウンセリングなどを行い今まで辛かったことや、悩んでいることを聞き共感することで心の安定を図る治療方法 |
薬物療法 | 抗精神病薬などの薬を用いて感情を落ち着かせていく治療方法。必要となる薬の種類は状況を見て判断する。 |
家族療法 | なぜこうなったのかという原因を探すのではなく家族の力を借りて、これから先どうなっていきたいかという事を考えた上で、どうすれば良いかを一緒になって考えていく治療方法。 |
4、二次障害がわかった時の対処法
二次障害がわかったら、医療機関と連携して家族や周囲のサポートも重要になります。医療行為だけでも、周囲のサポートだけでも二次障害を緩和させることは難しいので、医療機関と家族や周囲のサポート、児童福祉施設からのサポートを行っていくことが大切です。では、二次障害がわかった時に私たちや学校で出来る対処法を紹介します。
①問題行動以外に目を向けて褒めるべきところはしっかりと褒めていく
どうしても二次障害を発症すると、その行動や状態を悲観してしまい問題行動に目がいってしまいがちです。元々、発達障害の特性により小さい時から叱責されることが多かったのに、二次障害を発症したことでさらに叱責の量は増えてしまいます。しかし、一度二次障害の問題行動に目を向けずに、出来たことを褒めたり、何気ないことであっても嬉しかった、ありがとうと褒めていきましょう。叱責ばかりでは自己評価も低くなってしまい、ネガティブになってしまいます。しかし、自分がしたことで相手が喜んでくれた、自分はこんなことが出来たという達成感を感じることで、意欲を持つことが出来ますし、家族や友人との信頼関係を形成していくことも出来ます。
②学校全体で1つの問題として取り組む
学校生活での人間関係は二次障害の大きな要因として考えられます。学校全体で二次障害の対策に取り組むと共に、1つの問題として考えていくことが大切です。対応方針や障害についての情報を教員全体で理解、共有していき取り組んでいくことが重要です。理解が不足していたり、方針に対してズレがあったりすると対応に違いが出てしまい、かえって悪化したり信頼関係を壊してしまったりと混乱してしまう可能性があります。
また、どうしても二次障害がある子どもに目がいってしまいますが、周囲の子どものサポートも大切になります。発達障害や二次障害がある子の手厚いサポートしていくことも重要ですが、他の子どもにもきちんと目を向けて変化がないか、子ども同士の関わりについてなど細かいところに目を向けていくようにしましょう。
③家族の間では『ペアレントトレーニング』を行っていくことも◎
ペアレントトレーニングとは、子どもと家族(親)がより良い関わり方を学びながら、困難なことを一緒に解決していき、楽しく子育てをしていくためのトレーニングプログラムです。
二次障害が長く続くことで、最初は子どもの気持ちを理解しようと努力したり、対応しようとしても、問題行動に上手く対応することが出来ず、親の精神状態のバランスが崩れてしまいます。そうすると、子どもの問題行動が強くなってしまい悪循環に陥ってしまいます。親子共々のストレスを緩和して、その子の特性に合った子育てをしていくので、二次障害の予防の面で考えても、二次障害の対処法としてもペアレントトレーニングは効果的と言われています。
このように、二次障害の対処法はいくつかあります。しかし、二次障害を発症した時には一人で考えるのではなく、医療機関に相談したり、児童福祉施設との連携が必須です。二次障害かもしれないと感じたら、速やかに相談し早期治療をスタートすることが大切です。
5、まとめ
発達障害は防ぐことが出来ませんが、二次障害は早期理解と適切な対応を行うことで、予防することは十分可能です。また、二次障害を発症した時でも医療機関と連携して治療と並行して、環境を整えたり、ライフスキルやソーシャルスキルをトレーニングしていくことで重篤化を防ぐことが出来ます。
二次障害は家族などの周囲の理解を早期に得られることで、発達障害本人が自己肯定感を高めたり特性を理解することで、ストレスに柔軟に対応することが出来るようになります。二次障害かもしれないと感じた時には、まずは医療機関や児童福祉施設に相談することから始めましょう。