発達障害の特性の1つで『感覚過敏』と『感覚鈍麻』があります。あくまでも特性の1つですので、『感覚過敏』や『感覚鈍麻』を持ちあわせていない人もいますが、『感覚過敏』や『感覚鈍麻』を持ち合わせていると日常生活に大きな支障をきたしてしまいます。
では、『感覚過敏』と『感覚鈍麻』についての解説に加えてどのように対処すれば良いかを解説します。
目次
1、発達障害の特性の1つである『感覚過敏』と『感覚鈍麻』
発達に凹凸がおきてしまうことで、コミュニケーションが苦手であったり、いつもと違う環境の変化に上手く適応することが出来ない発達障害。発達障害にはその人それぞれの特性があり、それぞれに生き辛さやもどかしさを感じています。また、それは小さい時であれば、子育てをしている親も同様に感じてしまい「育てにくい」と悩むこともあります。
様々な特徴がある発達障害ですが、中でも特徴的に表れやすいのが『感覚過敏』と『感覚鈍麻』です。五感による感覚が非常に敏感に反応してしまい生活に支障をきたしてしまう『感覚過敏』と、一般的には苦手とされる音などでもあまり気にならず特定の感覚が鈍感である『感覚鈍麻』を非常に不快に感じてしまいパニックや混乱を引き起こしてしまうことがあります。例えば、私たちからすると問題ないテレビの音を異常に嫌がったり(感覚過敏)、私たちが嫌と感じる黒板をひっかく音に対して何も感じなかったり(感覚鈍麻)することがあります。
私たちは生活をしていく中で、目で見たものから視覚情報を受け取り、耳により情報を受けとり、最終脳で映像や音を認識します。感覚過敏の場合には、この受け取った情報を認識する役割がある脳が様々な情報に敏感に反応してしまい、生活に影響を与えてしまいます。私たちが一見ダイナミックに感じる歓声や映画の音楽や、目に見えている多くの看板といったいわゆる『普通』な情報に対して恐怖心を覚えたりパニックになります。発達と同様に、感覚も非常に個人差があり人によって差があるものの、感覚過敏の場合はその差が特に大きくなります。
発達障害の中でも、自閉症スペクトラムはコミュニケーションが上手く取れなかったり強いこだわりが大きな特徴でしたが、その根底には『感覚過敏』や『感覚鈍麻』によるものが多いことがわかっています。特に『感覚過敏』は周囲の理解を得づらく、「我慢が足りないだけだろう」「もっと慣れるように努力をしなさい」と叱責されたり、理解してもらうことが出来ないことが多々あります。こだわりの強さやコミュニケーションをとることが出来ない背景に『感覚過敏』や『感覚鈍麻』があるかもしれないと感じることで、環境や状況を確認し工夫することが出来るようになります。
発達障害を抱える子どもの場合、何がどうして嫌なのか、どうしたら良いかということを言葉で伝えることが出来なかったり、または自分でも把握出来ていない可能性があります。親や周囲の大人が子どもの特性をしっかりと理解・把握した上で、環境はどうかを確認していくことが大切です。
2、代表的な『感覚過敏』『感覚鈍麻』の現れ方
『感覚過敏』『感覚鈍麻』は、それぞれ個人差がありますので、同じ『感覚過敏』『感覚鈍麻』があっても、必ずしも同じ症状が現れるとは限りません。しかし、一般的にはあまり気にならないことに対して過剰に反応してしまったり、逆に気になるであろうことがあまり気にならない場合には『感覚過敏』や『感覚鈍麻』の可能性があります。では、代表的な『感覚過敏』『感覚鈍麻』の現れ方を紹介します。
◆感覚過敏の症状の現れ方例
感覚過敏が現れる場所 | 感覚過敏の現れ方 |
目(視覚) | ・一般的には眩しくない程度の光でも目を細めたり嫌がる |
・テレビ画面から目をそらそうとする | |
・特定の色や配色を嫌がる | |
・屋外で動いている人を見ていると非常に疲れる | |
・看板やネオンなどの大きな絵や文字を嫌がる | |
・ワイパーなど動いているものを目で追ってしまい疲れてしまう | |
・ビビットカラーなど強い色を怖がる、嫌がる | |
耳(聴覚) | ・特定の音がなると嫌がる(スピーカーや泣き声) |
・大きな音が急になると泣いたり怖がる(カミナリやサイレン) | |
・音が少しでもなっていると集中出来ない | |
・たくさんの音や話し声がしている中で、自分が聞きたい内容だけを聞くことが出来ない | |
・時計の秒針や換気扇などの小さな音が気になったりイライラする | |
・生活音が苦手で嫌がる | |
皮膚(触覚) | ・特定の繊維が苦手で触れることを嫌がる |
・身体や手足がべたべたしたり、ぬるぬるするのが極端に苦手 | |
・歯磨きや爪切りをされることを嫌がる | |
・握手やハグを人とするのを嫌がる | |
・人の身体が触れるだけで嫌がったり引いてしまう | |
・自分が好きなもの(タオルなど)を肌身離さず持とうとする | |
鼻(嗅覚) | ・匂いの好き嫌いが激しく少しでもその香りをすると非常に嫌がる |
・化粧品売り場や食品売り場など複数の匂いが混ざっているのが苦手 | |
・かすかな匂いの変化にも気が付く、ストレスになる | |
・匂いをかいで何かを確認しようとする | |
口(味覚) | ・ねばねばしたものやカリカリした食品を嫌がる(食感が敏感) |
・カレーのように違う味や食感が混じることが苦手 | |
・偏食で特定の味しか好まない | |
その他 | ・ぶらんこや高い遊具を異常に怖がる(平衡感覚) |
・車だけでなくエレベーターなどでもすぐに酔ってしまう | |
・暑さや寒さを異常に感じてしまい極端な面がある | |
・痛みに対して敏感であるので注射などを怖がる |
◆感覚鈍麻での症状の現れ方とは
感覚過敏に比べるとあまり周囲からわかりにくい感覚鈍麻ですが、中でも代表的なのが触覚です。触覚で温度や痛覚が鈍いことがあり、この場合には注意が必要です。というのも、熱いものや極端に冷たいものを触った時に私たちは熱さや冷たさを瞬時に感じ取り危険を回避することが出来ますが、この触感が鈍いと身体的な痛みや熱さに気が付くことが出来ず、そのまま放置してしまい重症化してしまう危険があります。火傷をしたり、転んで骨折をしてても触覚が鈍感であると気が付かず、即座に適切な処置を受けられない可能性があります。
また、平衡感覚も鈍く表れることが多い感覚の1つで、バランスを上手く自分自身で調節することが難しいので、刺激を求める傾向にあります。これを探求行動と言い、自分の鈍い感覚を補うために刺激を意図的に与えてしまいます。例えば、歩く時につま先でわざと歩いたり、ぐるぐると回ったり、走る時に頭を左右に強く振ったりします。刺激を過剰に求める時は感覚鈍麻の可能性がありますので、病院で相談してみましょう。
3、『感覚過敏』『感覚鈍麻』での対応方法や予防法
【感覚過敏の場合】
特に生活に支障をきたしやすい『感覚過敏』の場合、日常生活でも混乱やパニックを起こすことがあります。ですので、そうならないための予防法や対処法を覚えておき実践することは大切です。特に感覚過敏の場合には、無理に治そうとしたり慣れさせようとすることは禁物です。苦手とする感覚を慣れさせようとしても苦痛が伴うだけですので、無理強いは絶対にしないようにしましょう。
感覚過敏の場合、その子にとって苦手な感覚があるとパニックを起こしてしまいます。ですので、パニックや混乱を起こしている場合にはどうすれば良いかを、事前にしっかりと覚えておくことが大切です。
①混乱やパニックを起こした場合には落ち着ける場所へ移動する
②気持ちを落ち着かすことが出来るものを常備しておく
③感覚統合療法を受ける
感覚の異常な刺激によって混乱を招きやすい感覚過敏では、一度混乱やパニックを起こした場合にはその場から離れて気持ちを落ち着かせることが大切です。落ち着ける部屋や場所を事前に確保しておいたり、学校生活の中でも過敏に感じてパニックになった時に、どの場所に行けばよいかを把握しておくとよいでしょう。
また、自分で刺激を回避することが出来る能力も身につけていくことが大切です。感覚過敏は日常生活のなにげない音や触感、見えるものを異常に感じ取ってしまうことが原因になりますが、どうしても全てを避けて通ることは出来ません。ですので、自分が混乱をしてしまうかもしれない時には、耳栓で音をシャットダウンしたり、サングラスをして光や色の刺激を抑えるなど自分で工夫して対処出来るように小さい時から一緒にトレーニングしていくようにしましょう。年齢が小さい時には、自分で対処することは難しいので、親や周囲の大人が混乱を起こさないようにアイテムを用意しておき、心を落ち着かせるようにして慣れていくことが重要です。
日々の対応方法として、感覚統合療法も効果的です。感覚統合療法とは、触覚や平衡感覚の発達を、運動や身体を使う遊びを通して感覚を整えていく療育方法の1つで、多くの療育施設で実践されています。私たちは1つの事柄に対して様々な感覚が組み合わさって理解することが出来ます。逆にこの感覚統合が正常になされてないと、異常に感じ取ってしまいます。感覚を上手く統合することで、感覚として認識するのです。この感覚統合は運動や遊びを通して育むことが出来ますので、感覚過敏の対応や改善へと繋がっていきます。
感覚統合療法は専門的なリハビリを行う施設や児童発達支援事業所などで行うことが出来ます。
【感覚鈍麻の場合】
感覚鈍麻の場合、子どもの時は刺激を求める『探求行動』が目立つことが多くあります。感覚をしっかりと満たしてあげることで、刺激を求めなくなることが多くありますので、欲求を満たしてあげるような遊びや運動を日々の中で行っていきましょう。感覚鈍麻では、痛覚や触覚が鈍い場合適切な治療を行うことが遅れてしまい、怪我などがひどくなってしまう可能性があります。そうならないためにも、日ごろから体の様子を常に確認しておきましょう。
【感覚過敏と感覚鈍麻の予防法】
では、『感覚過敏』『感覚鈍麻』の予防法としては以下になります。
①過敏に反応してしまう原因を取り除く
②アイテムを用いて感覚過敏にならないようにする
③次に起こることを事前に知らせる
④体調を把握したり状態を理解しておく
どういった時に感覚過敏が起きるのかを把握しておくと、様々な工夫をして予防することが出来ます。1番効果的なことは、その子が苦手とする音や視覚といった感覚を環境から取り除くことです。例えば、時計のアラーム音が苦手であれば電源を切っておいたり、違う部屋に置いておくと、その音自体を聞かずに済みますので混乱を招くことはありません。環境を見まわして出来る限りその子が過ごしやすい環境を整えておくことが大切です。
しかし、自宅であれば環境を整えることが出来ますが、苦手とすることが屋外の場合には環境を予め整えておくことは出来ません。そういった時には、アイテムを活用して感覚過敏を引き起こさないように配慮しましょう。音が苦手な場合には耳栓を付けたり、においが苦手な場合にはマスクをつけたりというようにアイテムを活用することで、予防することが出来ます。
また、発達障害の特性で急な変更にも対応することが難しいという側面があり、その変更に対しての混乱を避けるために、予め起こることを話しておき気持ちの準備をしておく方法がありますが、感覚過敏に対してもこれは有効です。「大きな音がなるよ」「ここをまがると看板がたくさんあります」というように、前もって何が起こるかを把握しておくと、心の準備を幾分かでもしておくことが出来ます。
また④にあるように、体調や気分によっても感覚過敏が現れるかは異なります。体調がすぐれない時には、普段は気にならない音が頭にひびいたりすることがあるように、感覚過敏の特性がある子どもも、体調がすぐれない時には、いつもよりも混乱を起こしやすいケースがあります。逆に好きな事や得意な事に集中して取り組んでいる場合だと、嫌いな音や視覚があったとしても気に留めないで行ける場合もあります。
体調管理を行ったり、好きなことを取り組んでいけるか、苦手なことをしなければならない時間がある場合などは、感覚過敏を引き起こしやすいと理解しておくことが大切です。
4、まとめ
『感覚過敏』や『感覚鈍麻』は、発達障害の特性の1つとしてあり、その過敏さや鈍さは日常生活にも大きな影響を与えてしまいます。現在は、『感覚過敏』と『感覚鈍麻』の研究が進んでおり、発達障害の困難に感じる行動の背景には感覚による不快さがあるのではないかとも考えられるようになりました。『感覚過敏』や『感覚鈍麻』は努力をして治ることは少なく、本人にとっては強い刺激であるにも関わらず周囲には理解してもらうことが難しいという側面もあり、それがさらに生き辛さを加速させてしまいます。
年齢があがるにつれて、自分で刺激から避けるようにトレーニングしたり、周囲が理解を深め刺激を避けられるようにしていき、誰しもが充実した生きやすい環境を作っていくことが大切です。
また、『感覚過敏』や『感覚鈍麻』のように感覚には個人差が大きく、自分にとったら平気なことであっても周りの人の中には苦痛に感じている人がいるかもしれない、と大人が常に考えていくことも重要です。常に意識をもっていることで、実際に『感覚過敏』や『感覚鈍麻』の子どもに出会った時に適切な対応が出来るようになります。