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1、赤ちゃんから子供へ…言葉の発達の過程とは
赤ちゃんだった我が子がハイハイをし、つかまり立ちをし歩くようになっていき喜びと楽しみが入り混じる反面、体の発達だけでなく内面の発達も気になりますよね。中でも、言葉が中々出てこないとなると、発達面では大丈夫なのかと、とても心配になることがあるでしょう。
子供の心身の発達や成長は必ずしも同じではなく、個人差が非常に大きくなりますので当然言葉の発達も遅い子もいれば早い子もいます。ですので、発達に関して他の子と比べるものではないとわかっていても、どうしても比べてしまい一喜一憂してしまいますよね。では、そもそも言葉の発達はどういった過程を辿るのでしょうか?
言葉の発達は意思や思いを伝える『泣く』ことが始まりです。赤ちゃんは泣くことで、自分の思いやして欲しいことを伝えていきます。その後、生後2か月を過ぎるころから、泣き声以外に「あー」「うー」といった言葉を発します。これが『クーイング』です。泣き声以外の声を出し、音を作る器官が成長していきます。そして、「あばば」という意味はないものの何等かの形で言葉を伝えようとする『喃語』になります。喃語を発する頃には、表情も豊かになり興味の対象も一気に増加していきますので、子どもの成長をさらに実感することが出来るようになります。喃語に加えて手振りや指差しで自分の思いやして欲しいことを伝えるようになっていったら、「まんま」「ママ」「わんわん」といった意味持つ言葉である一語文を獲得します。一語文の期間にたくさんの語彙を得て、「ママ、どこ」「まんま、食べる」という名詞と動詞による二語文へ成長します。単なる言葉であった一語文から、二語文を辿りしっかりとした文章へ変化していきます。その後、「ママ、どこにいるの」「まんまを食べたい」と助詞や助動詞を加えた文章へなりますが、この頃には他の人とのコミュニケーションをしっかりととることが出来たり、周りがして欲しいことを伝えると意味を理解して動くことが出来るようになります。
2、言語発達遅延は発達の過程で正常範囲に戻ることは少ない
上記のように、赤ちゃんは身体の成長に伴って、自分の意思を持ち伝えたいと感じるようになります。そして、その自分の思いを伝える手段として「言葉」を習得していきます。最初は単なる発声であっても、意味を持つ言葉から文章へ成長していきますが、言葉の発達は個人差が大きくなり早くにきちんとした文章を話せることが出来る子どももいれば、年齢よりもずっと語彙が少なかったり、言葉の発達が遅い子どももいます。
しかし、個人差を加味しても生活年齢よりも言葉の発達が著しく遅い場合には『言語発達遅滞』の可能性が出てきます。言語発達遅滞は、この年齢ではこの程度の言葉を獲得している、という基準から大きく下回った場合に疑いが生じます。言語発達遅を疑われる例としては、1歳半でもまだ全く言葉が出てこなかったり、2歳でこちらの指示を伝えても全く理解出来ていない場合などが挙げられます。しかし、先程述べたように言葉の発達には個人差があり、こちらの指示の言葉は理解しているものの、言葉の表出が遅い場合には3歳前後に一気に発語が伸びていき平均内に入ることも珍しくありません。言葉の発達が単に遅くいずれ追いつくのではなく言語発達遅滞の場合だと、こちらの指示の言葉が理解出来なかったり、意味ある言葉が少なく年齢よりも遅い倍には年齢が大きくなるに伴って症状は顕著になっていきます。
言葉の遅れというと、どうしても発語しないということ(表出力)に重きを置いてしまいがちですが、指示言葉を理解出来ないこと(理解力)も言葉の遅れになります。単に発達がゆっくりの場合であれば、年齢を重ねた時にどのタイミングかで言葉を記憶したり発するようになりますが、言語発達遅滞の場合だと、表出力も理解力も少ない傾向があり、ある年齢に達しても言葉を一気に発することは少なくなります。ですので、小さい時からきちんとトレーニングを行って言葉の成長を促す必要があります。
2、発達障害と言語発達遅延は違う?
言葉の発達が年齢よりも著しく遅れが見られる言語発達遅滞ですが、発達障害とはどう違うのでしょうか?
発達障害は自閉症スペクトラムや注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)が代表的に挙げられますが、発達が年齢よりも遅れており、こだわりが強かったりコミュニケーションや社会性が不足しがちであるために、環境の変化についていくことが出来なかったり、対人関係を上手く構築出来ない傾向があります。発達障害といっても、必ずしも同じ特性が現れるのではなく、同じ障害であってもその子一人一人のよって特性は異なります。ですので、その子にあった特性に沿った支援や指導を行っていくことが大切です。
言語発達遅滞とは、言葉の発達が生活年齢よりも遅れていることで、発達障害の特性の1つになります。注意欠陥多動性障害や学習障害では言語発達遅滞は少ないですが、自閉症スペクトラムの場合は、言語発達遅滞は1つの目安になります。年齢相応に言葉が発達しているかというのは、乳幼児健診の中でも1つの検査項目になっています。
何らかの理由があって、言葉の発達が遅れており、それが経過観察しても中々発達が見られにくい場合には発達障害の可能性が疑われます。発達障害と言語発達遅滞は全く異なるのではなく、発達障害という障害の1つの特性として言葉が年齢よりも遅れる言語発達遅滞があるということになります。
3、言語発達遅滞の考えられる主な原因
言語発達遅滞は何らかの原因があって、言葉が遅れていることが考えられます。では、言語発達遅滞の原因とは何なのでしょうか?
①聴覚機能の障害や問題
言葉は親や周囲の人が話している言葉を聞いて成長していきます。たくさん自分に話しかけてもらったり、話している言葉を自然と覚えていきます。ですので、耳の聴覚機能というのは非常に大切になります。しかし、難聴といった障害があると、話しかけられた言葉を耳で吸収することが出来ませんので、言葉の発達が遅れてしまったり、成長しないままになってしまいます。
聴覚機能の障害がある場合には、視覚的に情報を受け取るトレーニングをしたり、病院で聴力を改善するために治療を行ったり、家庭でも行えるトレーニングやサポートしていく必要があります。聴覚機能の障害や問題を見つけるには、病院での検査が必要になりますが、家庭内でも簡単なチェックリストで検査を行うことが出来ます。耳が聞こえているのか不安や心配になった場合には、まずはチェックリストで検査してみましょう。
◆聴覚機能のチェック項目
・音がなった方向を正確に見ない
・大きな音にびっくりしない
・生後6か月を過ぎても音をする方向を向いたり音の真似をしようとしない
・1歳近くなっても言葉を話そうとしない
・3歳までに単語を話さない
・言葉よりもジェスチャーで伝えようとする
・何度も聞き返す
・テレビの音をとても大きくしようとする
・話しかけても聞こえていないことが多い
・会話を聞き取ることが出来る年齢であっても聞き返しが多い
・話かけたり音がするとどこから鳴っているのかわからない
・小さな音や早口だと全くわからない
このように、発語が遅れている以外にも聴覚機能の障害や問題がある場合には、様々な症状が見られます。新生児の時に耳が正常に聞こえているかを調べる新生児聴覚スクリーニング検査が行われますので、先天的な難聴の場合には、そこで疑いが告げられます。しかし、難聴は後天的にも発病することがありますので、気になることがある場合にはすぐに病院へ行くことが大切です。
②脳の機能障害や口腔内の障害が見られる
脳性麻痺や口唇口蓋裂といった発音する構造に問題が見られたり、言葉を理解するための脳に障害がある場合には、言葉の発達が遅れてくる傾向があります。脳性麻痺や口唇口蓋裂の場合には、きちんと病院で検査や治療をしてもらったり、トレーニングを行っていくことが必要になります。脳性麻痺や口唇口蓋裂も生まれたや赤ちゃんの時には気が付くことが出来ます。
③発達障害が見られる
言葉の発達は乳幼児健診でも、発達の目安として必ず質問されます。発達障害は先天的な脳や中枢神経の機能障害で、代表的には環境の変化が苦手であったり、こだわりが強く、コミュニケーションが上手く取れないという特性が見られます。発達障害の中でも、特に自閉症スペクトラムの場合にはコミュニケーシ能力が不足しているために、コミュニケーションの中で言葉を獲得しづらくなります。
ですが、発達障害の特性に当てはまり、なおかつ言葉の発達が遅れているからといって、必ず発達障害であるとは限りません。子供の発達は個人差が大きいので、発達障害の兆候としての言語発達遅滞か、現在は言葉が遅れているものの、成長過程で一気に語彙が増えて問題なくなる場合があります。発達障害自体、特性はその子どもによってバラバラですので、安直に言葉が遅い、コミュニケーシが取りにくいから発達障害だと決めつけるのではなく、成育歴や認知機能検査など総合的、多角的に検査を行う必要があるので専門家によって判断されます。
言葉の発達が遅れている、と感じた場合には、一人で悩まずに自治体の相談窓口や通園している場合であれば保育園や幼稚園、かかりつけ医などに相談してみることが大切です。
4、言語聴覚士による専門的なトレーニングも効果的
言語発達遅滞は言葉のトレーニングを行うことで、成長を促したり改善することが出来ます。その言葉のトレーニングを行うための、専門的な知識を有しているのが言語聴覚士です。言語聴覚士は言葉や聞こえについての障害を持つ人に対して、サポートやリハビリ、トレーニングを行っていきます。
発達障害の場合、小学校へ就学するまでに療育を行い、困難なことや苦手とすることをサポートしたりトレーニングをして、克服や改善していきますが、その際に言語聴覚士による指導やトレーニングを行うことがあります。
トレーニングの内容としては、視覚的に刺激して正しい言葉を伝えていったり、発音が苦手な場合であれば発音の練習も一緒に行っていきます。言語聴覚士は言葉の発達や聴覚に関する専門的な知識を持っており、その子ども一人一人がなぜ言葉の発達が遅れているのか、その子の特性は何かをしっかりと理解し把握した上でトレーニングを行っていくために言語聴覚士によるトレーニングは非常に効果的です。しかし、現在言語聴覚士自体、不足している人材ですので、すぐにトレーニングを受けたくても厳しいことがあります。言語聴覚士によるトレーニングを受けたい場合には、まずは自治体の相談窓口へ連絡しどのような手続きをしたら良いか、どこの施設でトレーニングを受けることが出来るかを問い合わせしてみましょう。
5、家庭で行うことが出来る簡単なトレーニング方法3点
子どもの言葉の発達は、大人とのコミュニケーションがとても大きく関係しています。ですので、知的な遅れがないもののコミュニケーションを上手くとることが出来ない発達障害などの場合には、言葉が遅れてしまう傾向があります。
言語聴覚士による専門的なトレーニングは効果的ですが、言葉は家庭でもトレーニングすることで成長を促すことが出来ます。日々のトレーニングが高い効果を生みだしますので、言葉の発達が気になる場合には、まずは家庭でもトレーニングを行ってみましょう。では、家庭でも出来る簡単なトレーニングを紹介します。
【言葉を通じてコミュニケーションをはかる】
先ほど述べたように、言葉の発達は大人と子どものコミュニケーションを通じて促されます。ですので、ちょっとした時にもコミュニケーションをとるようにすることが大切です。気持ちを共有したり、相手に理解してもらえている喜びを感じることは、言葉だけでなく様々な発達を促すきっかけになります。
子どもがしていることに対して「〇〇してほしかったのかな?」「おいしいね」「かわいく描けたね」などと気持ちを代弁したり、共感できるような肯定的な言葉を伝えていきましょう。注意点としては、漠然とした「すごいね」といった言葉ではなく「くまさんかわいいね」「前は出来なかったのに、出来るようになったね」などと具体的な言葉へ変換することが大切です。
【ゆっくり、はっきりと話す】
言葉は慣れてくるとどうしても早く話しがちになってしまいますが、はっきりとした発音でゆっくり話すことで子どもへ届きやすくなります。大人に比べると子どもも聴覚は未発達で、早く話してしまったり小さい声でぼそぼそ話しても聞き取ることが出来ません。言語発達遅滞の場合であれば、さらに難しくなり、小さい言葉や早口でいくら話しても伝わりません。話しが聞き取れなかったり、自分の中で意味がわからないと、話自体を聞かなくなってしまったり、言葉によるコミュニケーシが億劫になってしまう場合があります。
言語発達遅滞だとまずはしっかりと言葉を伝えることが大切になりますので、ゆっくりとはっきりとした声で目を見て話すようにしましょう。
【たくさん五感を使った遊びや経験をする】
言葉が遅れてしまう子どもにとって、様々な経験は非常に刺激的で言葉の成長を促すきっかけになります。まずは外の世界へ興味を持ち、安全地帯を確保しながらも外へ歩みだす力を養うことが大切です。外の世界へ出るとたくさんの見たことのない物や音を知ることになり、それが刺激となって多くの発達を促します。
そのためには、散歩に出かけたり、公園などへ行ったり、その子が興味あることを掘り進んでいったりすることで、五感を最大に刺激することが重要です。五感を刺激していくと、自分から学びたい、感じたい、思いを伝えたいという感情も育むことが出来るようになり、言葉の発達にも良い影響を与えます。その経験の中でも「電車、早いね」「赤い車かっこいいね」「かわいい猫だね」と具体的な言葉掛けを忘れないようにしましょう。
【環境を整える】
家にいる時にテレビを1日中つけていたり、スマホやタブレットで動画を長時間見せていると、コミュニケーションを身につけることが難しくなります。テレビやスマホが言葉の発達に直接影響しているとは言えませんが、やはり大人や周囲の人との関わりの中で言葉を獲得していけるのが理想です。生活環境を整えることも、家庭で出来る言語発達のトレーニングになります。
もちろん、テレビやスマホが悪いのではなく、長時間見ているのは刺激が強くなったり、コミュニケーションが取り辛くなるということですので、全く見せないのではなく上手く活用し育児の中で適切な時間を守ることが大切です。
【2つの選択肢を与える】
「電車と車どっちの本にする?」や「クッキーとラムネどっちにする?」と2つの選択肢から選ぶことも、言葉のトレーニングになります。2つのものを対比することで、数の概念や大小、高い低いといった 比べる能力を育むことが出来ます。また、自分の力で決めることで、自分の思いを伝えようとする気持ちを育てることができます。
5、まとめ
言語発達遅滞は言葉が何らかの原因があり言葉の発達が遅れてしまっている状態です。言葉の発達は個人差が大きいので、3歳前後になると一気に語彙が豊富になってくることもあります。しかし、3歳以降も言葉が増えなかったり、年齢よりもずっと言葉の発達が遅い場合には言語発達遅滞の可能性があります。特に発達障害の中でも自閉症スペクトラムだと、言語発達遅滞が現れることが多く発達の目安になりますので、しっかりと成長の様子を確認していくことが大切です。
言語発達遅滞も早期に発見してトレーニングを行っていくことで、言葉の発達を促すことが出来ます。言葉はコミュニケーションをとるための手段として重要になりますので、もしも言葉の面で遅れているかもしれないと感じた場合には専門家に相談することが大切です。