小学校に進学すると共に、発達障害の子どもは『通級指導教室』という言葉をよく耳にします。通級指導教室とは一体どのような場所を指すのでしょうか?通級指導教室の定義から、通級指導教室に通うための流れなど細かく解明します。
目次
1,小学校入学の際に耳にする『通級指導教室』
発達障害があると、未就学児のときには、『療育』という形で障害の特性について理解したり、支援やトレーニングを行っていきますが、小学校へ進学すると『通級指導教室』という場所でその子どもに合った特別な支援や教育を行っていきます。通級指導教室については、学校教育法第140条で『通級による指導とは、小学校又は中学校の通常の学級に在籍している軽度の障害のある児童生徒に対して、主として各教科などの指導を通常の学級で行いながら、障害に応じた特別の指導を特別の指導の場で行う指導形態である』と定めています。
つまり、軽度の障害がありながらも普通学級で他の生徒と一緒に勉強などを行いつつも、障害の特性にあった指導が必要な場合だけ、通級指導教室へいき適切な支援や教育を行っていくということです。
通級指導教室は学校教育法で設置することが定められていますが、軽度の障害ということで入学する地域の小学校や中学校に障害に適した通級指導教室がない場合もあります。そういった場合には、他校の通級指導教室に通うこともあります。すべての小学校・中学校でどのような軽度な障害がある人も、全員が通う小学校・中学校で通級指導教室に通うことが出来ないのが現状です。
通級指導教室は、平成5年に制度化され平成18年には、学習障害(LD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)も含まれ、指導内容についても弾力化されました。通級指導教室では、個人差が大きい障害に合わせて学習上や生活上で困難なことを改善するための指導を細かく行っていきます。
通級指導教室は小学校、中学校に通っている子の中で、比較的軽度の障害を持っている子どもが通うことになります。発達障害があると入学前に診断されていた場合であれば、通級指導教室を提案されますが通級指導教室に通うには審査が必要になるので、必ずしも通うことが出来るとは限りません。
2,『通級指導教室』の対象児とは?
通級指導教室の対象児は『軽度の障害がある』ことです。通級指導教室は特別支援学級と異なり、普通学級に在籍することが出来ることが前提です。その上で、生活上や学習上で困難なことを通級指導教室で指導、支援していきます。通級指導教室の対象になるかどうかは、学習面や生活面など多角的に見た上で総合的に判断されます。
障害を抱えている子どもの場合、就学前に地域の学校と就学先についての話と障害の特性についての相談がありますので、その相談の内容に加えて親の意向なども加味され判断することになります。しかし、通級指導教室に対しては、きちんと決まった判断基準はありませんので地域によって差が出てくる場合があります。
通級指導教室は地域の学校によって判断されますが、通級の指導対象になる障害については以下になります。
・言語障害 ・自閉症スペクトラム ・弱視 ・難聴 ・情緒障害
・学習障害(LD) ・注意欠陥多動性障害(ADHD) ・肢体不自由
・病弱、身体虚弱
これらの障害は個人差が大きいので、その子の特性などを考慮した上で判断は慎重に行われます。どの障害に関しても、道具(弱視であれば拡大鏡、難聴であれば補聴器など)を用いても通常の授業には基本的には参加出来ることが条件になります。通常の授業で補うことが出来ない部分を通級指導教室で指導、支援していくという形式になります。
3、『通級指導教室』の指導内容は障害、特性に合わせて考えられる
通級指導教室では、生活をしていく上で困難なことに関して支援、指導を行っていきます。また、学習面では授業の遅れを通級指導教室で補うというよりも、その子に最適な学習方法を学んだり、苦手意識をなくしていき学習に興味・関心を持てるように指導していきます。
通級指導教室に通う時間は制限があり、自立活動と教科指導の補充をあわせて年間35単位時間(週1単位時間)から年間280単位時間(週8単位時間)までが標準になります。しかし、学習障害(LD)と注意欠陥多動性障害(ADHD)の場合は、年間10単位時間から年間280単位時間になります。各小学校できまった障害に合った通級指導教室がありますので、必ずしも自校で通級指導教室を受けられるとは限りません。しかし、他の学校で通級指導教室を受けたとしても在籍している学校で指導を受けたことになりますので、どの学校で通級指導教室に通っても問題はありません。
先程述べたように、通級指導教室に参加する障害のある子どもたちは、違う障害であればもちろんのこと、同じ障害といってもそれぞれに特性がありますので個別に適切な指導内容を計画します。主な障害に関する通級指導教室での指導内容を詳しく見ていきましょう。
【言語障害】
基本的な指導内容としては、言語機能の状態の改善になります。しかし、言語障害の場合は、個人により出来る内容と出来ない内容が複雑になりますので、障害の状態をしっかりと把握してから指導へ移っていきます。また、言語機能は対人関係にも直接関係していきますので、コミュニケーション能力を高めていくことも大切です。通級指導教室での支援や指導に加えて、継続的な発音や発語の練習をしていくことが大切になりますので、家庭との連携や必要であれば医療機関との連携も図っていきます。
指導内容例
・正しい言葉の発音、発語
・構音器官の運動
・正しい音の認知
・言葉の流暢性を改善する
・日常生活における基本的な言葉の使い方や言い方など
【自閉症】
現在は自閉症スペクトラムとして、広汎性発達障害やアスペルガー症候群がまとめられていますが、自閉症スペクトラムの中でも知的な遅れがある自閉症に関しても通級指導教室の対象になります。自閉症スペクトラムは、社会性や対人関係のスキルが不足しがちで、こだわりが強く行動上やコミュニケーションを取るのが苦手という特性があります。この特性が影響し、学習面でも凹凸が見られることがありますので、生活面やコミュニケーションスキルだけでなく、学習面でも指導が必要になるケースが多くあります。そのため、グループでの指導と個別指導を行っていきます。
また、自閉症スペクトラムの場合は言葉で説明するよりも、視覚で伝える方がわかりやすいために、視覚機器などの教材などを用いて指導していくこともあります。
指導内容例
・学習面や技能の個別指導
・それぞれの場面においてのコミュニケーションを図るグループ指導(少人数)
・音楽や運動指導
・社会的なルールの確認
・コミュニケーションスキルの向上など
【アスペルガー症候群(自閉症スペクトラム)】
現在は自閉症スペクトラムに含まれていますが、アスペルガー症候群の場合には知的な遅れが見られないものの、対人関係の困難や社会性の不足、こだわりの強さなどが特性とありますアスペルガー症候群も特性は個人差が大きくなるので、それぞれの子どもに適した指導を行います。ソーシャルスキルが不足していることが多いので、ソーシャルスキルトレーニングが主に行われることが多いです。
指導内容例
・コミュニケーション能力の向上のためのグループ指導
・ソーシャルスキルトレーニング
・ルールやマナーなどの訓練など
【弱視、難聴】
弱視や難聴の通級指導教室としては、必要な道具の装着方法から視覚や聴覚の認知指導などがあります。視覚機能も聴覚機能も、学習面では必要不可欠になりますので、通常学級でもこれらの機能を効果的に使って学習する場合(社会の地図や図形、弁論など)には、補充的な指導を行っていきます。
また弱視も難聴も、周囲に理解してもらうことと、自分がどのような障害で出来る内容の把握をしていくことが大切になります。また、弱視や難聴では医療機関との連携も図っていく必要があります。
指導内容例
・視覚補助具、補聴器などの器具の装着指導
・視覚認知指導
・聞き取り指導
・言語指導(難聴)など
【情緒障害】
情緒の表れ方に偏りがあり、自分でコントロールすることが難しい情緒障害は、どのような特性があるかによって指導内容が変わってきます。場面緘黙症などであれば、カウンセリングや緊張を和らげるための場面指導などを中心に行っていきます。心理的な要因が多い情緒障害ですので、その子にあった指導に加えて段階に応じた指導を行っていくことが多くなります。
指導内容例
・カウンセリング
・様々な場面指導
・自身をつけていくための予習など
【学習障害(LD)】
知的な遅れはないものの、『聞く、書く、読む、話す、計算する、推論する』の中で、現在の年齢に対して著しく理解することが難しい学習障害も通級指導教室で指導することになります。知的障害ではなく、学習面での凹凸が非常に大きいので本人が苦手な分野を理解することや、苦手な科目をその子のペースに合わせて学習していくことが主な指導内容になります。
学習障害は人によって、何が苦手かは異なりますので、その子に適した指導案が用意されます。また、社会性やコミュニケーションスキルを育むために、グループ指導を行う場合もあります。
指導内容例*()内は苦手な内容
・興味のある題材から話を聞き理解する(聞く)
・話を聞いて内容を把握する支援(聞く)
・話を伝えるための手段や方法を学ぶ(話す)
・文字を拡大したりわかりやすい文章を音読する(読む)
・読解指導(読む)
・間違えやすい文字の訓練(書く)
・相手に要件を伝える、経験から文字に起こす練習(書く)
・計算指導(計算)
・文章問題などの読解指導(計算)
・空間認識能力の指導(推論)
・用語(左右や奥行など)の理解指導(推論)
・ソーシャルスキルトレーニングなど
【注意欠陥多動性障害(ADSD)】
注意を持続することが苦手であったり、自分の思いを我慢出来ずに行動にうつしてしまうことが多い注意欠陥多動性障害の場合は、自分の障害の特性に応じて環境を整えたり自分の欲求をコントロールするための指導が主になります。注意欠陥多動性障害も対人関係が苦手な傾向にありますので、ソーシャルスキルトレーニングも合わせて行うこともあります。
指導内容例
・不注意になってしまう要因を探す指導
・注意力を高める指導
・環境を整え刺激を調整する訓練
・自分の感情や欲求をコントロールする指導
・手順を確認し行動へ移す訓練
・集中して行動する指導など
【肢体不自由】
体の一部が動かしにくかったり、動かない肢体不自由の場合は意欲的に体を動かしたり、自然と体を動かせる指導を中心に行っていきます。また、肢体不自由の場合も家庭と連携して家にいるときも体のケアを行えるように配慮していきます。また、必要な場合であれば学習機器なども活用するなど臨機応変に対応していきます。
指導内容例
・音楽や運動による指導
・体の動きの改善、向上指導など
【病弱・身体虚弱】
入院していることが多く、体調面をしっかりとサポートしていかなければならない病弱・身体虚弱の場合は、通級指導教室でも体調面に配慮しながら行っていきます。また入院などで、学習面が遅れている場合には下学年の学習内容をその子どものペースに合わせて行っていったり、個人のサポートが重要になります。病弱・身体虚弱の場合には、学校と家庭だけでなく医療機関との連携も図りながら、指導や支援を行うことになります。
指導内容例
・体力の回復や向上を図る指導
・学習面での遅れを補う学習指導
4,『通級指導教室』に通うための流れは
通級指導教室へは、小学校へ入学し希望を出したら通うことが出来るのではありません。きちんと手順通りに申請を行い、審査を受けて通級指導教室が必要と判断された場合にのみ通う事が出来ます。通級指導教室に通うには審査があるため、発達障害などと診断されていても通級指導教室が必要ないと判断されたら通うことは出来ません。就学前相談などで通級指導教室に通いたい、という親の希望を出すことは可能ですし、希望を考慮してくれますが、必ずしも通うことが出来るのではないということは覚えておきましょう。
通級指導教室への申請手順は自治体によって異なりますので、事前にきちんと確認しておくとスムーズに進めることが出来ます。大まかな流れとしては、①市町村の自治体へ連絡②申請書を集め送付する③面談④審査⑤判定になります。
①市町村の自治体へ連絡
まずは通級指導教室への審査をお願いするために、自治体へ連絡をします。市役所の学校教育課など学校に関する課に連絡を入れ、必要な書類は何か、どのような手順で申請すればよいかを問い合わせしましょう。
②申請書を集め送付する
通級指導教室に通うにはいくつか審査するための書類が必要になります。
基本的には
・申請書
・診断書
・発達検査の試験結果(wisc検査などの結果)
は必須になりますので、用意しておきましょう。発達検査や診断書の場合には費用もかかりますし、書いてもらうのに時間が必要になる場合がありますので注意が必要です。
③面談
多くの自治体では親子で面談を行います。面談の際に申請書類が必要になることがありますので、面談の日時までに用意しておくと安心です。
面談では生活面で困っていることや困難なこと、障害の特性、障害の診断名など子どもの様子や状況について話を聞かれることが多いです。
④審査⑤判定
すべての書類が受理され面談が終えたら、教育委員会による審査が行われます。この審査の結果、通級指導教室が必要と判断された場合には、通級指導教室に通うことが決定され、通知されます。
上記が基本的な流れになりますが、自治体によっては通っていた幼稚園や保育園からのレポートや個人調査票のように発達障害について詳しく書かなければならない書類が必要な場合もあります。ですので、必ずどのような書類が必要かどのような流れで申請をするのかということを、きちんと確認しておきましょう。
また、市役所(区役所)などの就学相談の窓口に連絡すれば、地域の小学校にどの障害に対しての通級指導教室があるのか、見学をすることが出来るか、など様々な情報を教えてくれます。通級指導教室は各学校に決まった障害に対しての通級指導教室しかありませんので、事前に自分の子どもの障害にあった通級指導教室はどこの小学校にあるのかを把握しておくことが大切です。
また、小学校に入学してから通級指導教室が必要になるケースもあります。そういった場合には、小学校・中学校の校内委員会へ連絡し支援を受けられるようにしましょう。校内委員会は各学校に設置された委員会で、支援が必要になる子どもの把握や指導計画の作成、保護者との相談窓口になったりと、障害がある子どもだけでなく保護者との連携も図る役割があります。入学後に通級指導教室の必要性が出てきた場合には、担任との相談に加えて校内委員会との相談を行うことが必要になります。
5,『通級指導教室』のメリット・デメリットまとめ
発達障害など軽度の障害を抱えた子どもに対して、行われる通級指導教室ですが、その子本人に適した指導を行うことが出来るのは大きなメリットです。
しかし、当然デメリットも存在します。では、通級指導教室のメリット・デメリットとは何なのでしょうか?それぞれに分けて解説します。
【メリット】
・その子の特性に応じた指導や支援を受けることが出来る
・通常学級に在籍しているので他の子と接する機会が多い
・コミュニケーションを多くとることが出来るのでソーシャルスキルが伸びやすい
・普通学級で授業が受けられる(中学校であれば内申点に含まれる)
通級指導教室の最大のメリットは、その子が困難なことや苦手なことに関して適切な指導や支援を行うことが出来るという点です。苦手な部分は通級指導教室で学んだり、経験することが出来ますので自信へも繋げていくことが出来ます。また、基本的には普通学級に在籍することになりますので、他の友達と接する機会が多く、コミュニケーション能力を自然と育むことが出来ます。
【デメリット】
・基準が曖昧なので地域の自治体によって審査に差がある
・必ず就学する小学校・中学校に通級指導教室があるとは限らないので、遠い学校へ通わなければならないことがある
・定員があるので通うことが出来ないことがある
・制度や指導が地域によって差がある
通級指導教室はまだまだ基準が曖昧な上に、定員がありますので必ずしも通うことが出来るとは限りません。未就学のときの療育のように多くの希望が通るというのではなく、総合的な判断の結果通うことが出来るので、発達障害の子どもを持つ親としては審査結果に納得がいかないこともあるでしょう。
また、公立高校では通級指導教室や特別支援学級は設置されていないので、中学校以降の進学に不安が残ります。メリットも大きいですが、まだまだデメリットも多くあるのが現状です。
6,まとめ
通級指導教室は発達障害など軽度の障害がある子どもが、苦手な分野や困難なことに関して最適な指導や支援をしてもらうことが出来ます。しかし、まだまだ通級指導教室には定員や人員に対しての問題や、通級指導教室の通い先など改善しなければならない点があります。2017年には通級指導の教員が拡充されることが決定されましたので、徐々に問題点が改善されていくことに期待しましょう。
通級指導教室に通うためには審査が必要になりますので、出来れば就学に関する年長よりも前に、通級指導教室の見学や発達検査、情報収集をしておくと安心です。
子どもだけでなく、親にとっても大きな選択になる就学先。子どもが安心し落ち着ける環境で学習したり、楽しく過ごすことが出来るベストな選択を行っていくことが大切です。また、入学後も子どもの様子をしっかりと観察し、学校と家庭で連携を図っていくようにしましょう。