対人関係の悩みやこだわりが強かったりと、その特性から生きづらいと感じやすい発達障害。特性を根本的に治すことは出来ませんが、その特性を個性として良い部分を伸ばし、苦手な部分を克服していくには『療育』が適しています。では、実際に療育ではどんなトレーニングをするのでしょうか?
今回は発達障害での療育内容に加えて、療育にかかる時間や費用なども詳しく紹介します。是非参考にしてくださいね。
目次
1、療育対象となるのは18歳以下の児童
自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)や、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)といった発達障害を持つ子どもは、その特性を克服したり伸ばしていくために『療育』を行うことが多くあります。発達障害には様々な特性がありますが、その特性による生きづらさを改善していき、将来社会に出る時に少しでも困りごとがなく社会的に自立した生活を送ることが出来るように、医療や専門的な教育機関が連携して、その子の特性に応じたサポートやトレーニングを行っていきます。
療育は学校のように勉強を教えたり、他の子どもと足並みを揃えるために行うのではありません。食事や金銭感覚といったライフスキルや運動能力や認知能力、人と人との付き合いであるソーシャルスキルといった分野で苦手な特性と伸ばしていくべき特性をトレーニングします。
その子の特性を活かしていくと共に、苦手なことや困難なことよって大きなストレスを感じないように、全ての特性を個性として捉えられるようにしていくことが療育です。また、今まで育てにくいと感じていた親にも、子どもとどのように接すればよいのか、生活面でどのように工夫していけば良いかなどを具体的に教えてくれます。
療育、と聞くと障害を認めたようで抵抗がある人もいますが、療育は出来るだけ早期にすることが子ども本人とその家族にとって効果的と言われています。早期に療育をスタートすることで、社会適応能力を高めていき、自立し安定した生活を送りやすくなります。
【療育の対象児とは】
療育は誰でも受けられるということではありません。療育の観点から、サポートやトレーニングが必要という子どもだけが療育をすることが出来ます。
基本的には療育は18歳以下の児童を対象としていますが、発達障害での療育は小学校に入学する前(未就学児)が対象になります。身体障害、知的障害、精神障害(発達障害も含む)の3つの障害のいずれかが該当すると療育をすることが出来ます。
療育は乳幼児健診で必要だと判断した場合や、保育園や幼稚園での保育内容に加えて、療育での専門的なサポートやトレーニングが必要と感じた場合に療育を勧められます。療育には障害者手帳や療育手帳が必要と思われがちですが、障害児通所給付費支給申請と専門家の意見書があれば、発達障害の療育に通うことが出来ます。
◇厚生労働省が定める対象児童
身体に障害のある児童、知的障害のある児童又は精神に障害のある児童(発達障害児を含む)
*手帳の有無は問わず、児童相談所、市町村保健センター、意思などにより療育の必要性が認められた児童も対象
(引用:平成24年児童福祉法の一部改訂の概要について)
2、『個別療育』と『集団療育』にはそれぞれ異なる効果がある
療育を行うといっても、実際にはどのようなことをするのでしょうか?療育には『個別療育』と『集団療育』の2種類があります。療育内容になるとさらに細かくなりますが、『個別療育』と『集団療育』ではそれぞれの伸ばす役割が異なります。
【個別療育】
指導員と1人と発達障害児1人で療育を行います。指導員が側について療育を行っていきますので、細やかなサポートやトレーニングをすることが出来ます。個別療育は指導員が子どもの側で言葉や運動、認知などの療育を行っていき子どもは「できた」という自信を多く経験することが大きな目的になります。「できた」という経験を積み重ねていくことで、自己肯定感を高め意欲や情緒の安定を図ることが出来、将来二次障害を発症することを回避しやすくなります。個別療育では、その子の特性に応じたプログラムがあり、指導員と親がしっかりと連携、相談をしながら療育を進めていくことが出来ます。
【集団療育】
1対1で療育を行う個別療育に対して、何人かの子どもがグループになり指導員と一緒に療育を行っていくのが『集団療育』です。集団療育では約5人程度が1グループとなり、主に人付き合いであるソーシャルスキルを育んでいきます。友達と関わり合って、様々なシチュエーションに応じてかける言葉や態度、どうしたら良いかということを知っていきます。コミュニケーション能力をアップさせるには個別療育よりも、集団療育の方が特化しています。
このように、療育といってもまずは『個別療育』と『集団療育』に分かれ、どちらも役割や効果が異なりその子の特性に合った療育を行います。発達障害といってもその子によって特性は異なりますので、小さなつまづきや苦手な事、逆に良い部分や伸ばしていくべきことを見つけるには個別療育が適しています。
しかし、個別療育では指導員と子どもの2人で行いますので、コミュニケーション能力を育てることは難しくなります。そういった場合には、集団療育を行い人との付き合い方や関わり方などを学んでいきます。自然と暗黙のルールやマナーを学ぶことが難しい発達障害の子にとっては、集団療育を行うことでマナーやルールも学ぶことが効果を発揮します。
また、集団療育では親同士の関わりも増えていきますので、子どもの悩みを相談したり、情報交換を行うことも出来ます。個別療育も集団療育も発達障害の子が、自分の苦手なことを知り自信に繋げていき、自己肯定感を高めたり自己否定の感情をなくしていくことが重要です。
3、療育内容とは?実際にはどんなトレーニングを行うの?
個別療育と集団療育は、その子の特性に応じて指導員がプログラムに組み込んでいきます。では、実際に療育とはどのような内容があるのでしょうか?
療育の主な内容としては以下になります。
【言葉のトレーニング】【コミュニケーション能力のトレーニング】【生活習慣や日常動作のトレーニング】【運動機能のトレーニング】【親子関係・ペアレントトレーニング】【基本的な就学準備のトレーニング】【音楽療法やリトミック】
では、これらの療育内容について細かく見ていきましょう。
【言葉のトレーニング】
年齢よりも言葉の発達が遅い場合には言葉のトレーニングを行います。言葉のトレーニングでは、音の発声練習から絵の描かれたカードで語彙を増やしたりします。その子が楽しく行えるように、特性をしっかりと把握した上で最適な方法でトレーニングを行います。言語聴覚士による構音指導(正しく発音するトレーニング)といった専門的なトレーニングを取り入れている施設が多くあります。
【コミュニケーション能力のトレーニング】
集団療育で行うことが多いのがコミュニケーション能力のトレーニングです。ソーシャルスキルともいいますが、人との付き合いが苦手な傾向がある発達障害の子は、思春期以降対人関係で悩むことが増えていきます。そういった時に、少しでも悩みを減らせるように、自由遊びなどを通して人との付き合い方を学んで行きます。コミュニケーション能力のトレーニングの積み重ねによって社会生活にも適応しやすくなると共に、友人や上司とも上手くコミュニケーションをとることが出来るようになります。
【生活習慣や日常動作のトレーニング】
発達障害の子どもは、食事や排泄、着替えなどの日常生活に必要なスキルが不足している時があります。食事に偏りがあったり、食べる時に年齢に合った方法で食べられなかったり(小学校前なのに箸を嫌がる等)、着替えのボタンをつけられなかったりと、様々な苦手な分野があります。療育では手先のトレーニングをするために、おりがみやパズル、工作を行い指先を上手く使えるようにしていきます。
【運動機能のトレーニング】
遊びながら運動能力を高めていきます。学校の体育のような運動ではなく、サーキット遊びなどの遊びに近い方法で運動能力の発達を促します。また、運動をする際には指導者の話を聞く、注意事項を守る、行動に移すといった基本的なルールを知ることが出来るようになります。療育では競い合うことは少ないですが、子ども同士で刺激し合い、出来るようになりたい、あの子の真似をしてみたい、といった心の成長を促すことにも繋がっていきます。
【親子関係・ペアレントトレーニング】
子どもと一緒に過ごすことが多いので、両親が子どもとの関わり方や混乱やパニックになった時の対処法なども教えてくれます。特に1日中一緒にいる母親と離れて過ごす『母子分離』はとても重要な体験になります。親が子どもが療育を行っているのを客観的に見ることが出来ると共に、心の余裕を持ち子どもと接するようになることも療育内容の1つです。
親子で適切な関係を築くことは子どもの発達に必要不可欠です。発達障害の子どもは、その特性から小さい時から親が『育てにくい』と感じてしまい怒ってしまったり、悩んでいることが多く、それは子どもにも影響してしまいます。
子どもの特性を知り適切な関わり方や生活の工夫を知ることは、療育でも非常に大切になります。
【基本的な就学準備のトレーニング】
発達障害の療育は基本的に未就学児が対象になりますので、小学校へ進学するにあたって必要となるスキルをトレーニングすることもあります。といっても、字を教えたり計算を教えるというよりも、決められた時間に席に着いたり、絵を描いたり時計を見て時間を知る方法等が多くなります。小学校で教えてもらえる内容というよりも、就学するにあたって、苦手分野でつまづいてしまうことがないように、不足したスキルを療育に取り入れていきます。
【音楽療法やリトミック】
音楽療法やリトミックも療育で多く取り入れられている内容の1つです。勉強などに比べて、歌ったり踊ったりするリトミックや音楽は失敗の概念が少なくなります。ですので、自分の思う表現をしたり思うように歌っても誰かに怒られることもなく、自己表現を存分にすることが出来ます。
また集団療育でリトミックなどを行う時には、模範能力を育むことが出来ます。誰かがしているのを見て一緒に行う、という模範能力を育みながら、みんなで一緒にすることは楽しいことだ、自分の思う表現をしていいんだと知ることが出来ます。
代表的な療育内容を紹介しましたが、実際には施設によって様々なトレーニングが用意されており、その子の特性に合った最適な療育を行う指導計画を作成してくれます。当然、親が伸ばしてあげたい所や、日常生活で苦労しているところなども十分に加味してくれます。聴覚療育や視覚療育など多岐に渡りますので、実際に施設にどのような療育があるのか、子どもに適しているのかを考えて療育をスタートすることが出来ます。
4、早期療育は特性を理解しその子のよい部分をさらに伸ばすことが出来る
療育は全体で考えるのではなく、個人個人に最適なプログラムを作成してスタートすることが出来ます。そのため、出来るだけ早期にスタートすることが良いとされています。では、早期療育はなぜ良いとされているのでしょうか?
発達障害は小さい時には、年齢に応じたよくある行動であるために、親だけでなく周囲の人には障害があるということに気付かれません。しかし、実際には特定のものに固執してしまい離すとパニックになったり、友達と一緒に遊ぶことが出来なかったり、癇癪を起しやすかったりと、育てにくさというものを感じている親が多くいます。ですので、結果子ども自身が何度も怒られてしまったり、親が育て方が悪かったのではないかと深く悩んでしまい、親子関係に大きなストレスが生じてしまう可能性があります。
療育は子ども1人ではなく、親子一緒になって取り組むことで、親子関係を良好にしたり、特性を知ることで育児の大変さを緩和することが出来ます。療育を通して子どもとの関わり方や理解しやすい方法を見につけることで、子どもが今までどんな事に辛いと感じたり、突然起きていた癇癪や行動の意味を知り『自分の育て方が悪かった訳ではなかったんだ』と納得することが出来ます。
それと共に、子ども自身も早期に療育を行うことで、友達関係や社会生活に適応することが出来るようになります。
発達障害の子供はうつや不安障害、チック症といった二次的な問題(二次障害)を発症してしまうリスクが高いとされています。学校生活での仲間外れやからかい、いじめやライフスキル不足を実感したりすることで、強いストレスを感じ心身共にダメージを負ってしまい不安定に陥ってしまうことがあります。
早期に療育をスタートすることで、対人関係やライフスキルをトレーニングし本人も障害の特性を理解することが出来ますので、二次障害のリスクを減らす可能性があると言われています。
早期療育は大きなメリットが多くありますが、子どもと親の両方にとって快適で心身共に安定した生活を送っていくことが出来るということが最大のメリットと言えるでしょう。
5、療育にかかる費用や時間は?
療育は小学校や中学校のように義務教育ではありませんので、利用するのには費用がかかってきます。しかし、現在は多くのサポートが各自治体で整っているので、個人で負担する金額は抑えられています。
療育を行うとなると、利用する施設には3種類ありその中から、自分のライフスタイルや、子どもの特性に合った施設を選び利用することになります。
療育を行う施設としては
①市町村などの自治体が行っている公立の療育施設
②民間企業が行っている私立の療育施設
③病院などで医療行為として行うことが出来る施設
があり、この中から選びます。
それぞれの施設でかかる費用は異なりますので、事前にいくらかかるのかを問い合わせしておくと安心です。
①市町村などの自治体が行っている公立の療育施設
市町村などの自治体が行っている公立の療育施設というのは、障害者福祉法、児童福祉法、発達障碍者支援法によって自治体で運営されている施設の事で、所得により金額の上限があります。受給者証があると自治体が9割を負担してくれますので、自己負担としては1割で療育を受けることが出来ます。発達支援センターや療育センターと言われる施設が多く、各自治体によって細かい料金体制は異なってきます。
障害者受給者証(通所受給者証、入所受給者証)を取得すると、利用することが出来ますので、まずは障害者受給者証を取得するようにしましょう。利用料金としては生活保護や非課税世帯であれば0円、年収が890万円以下の場合上限4600円、年収が890万円以上であれば37,200円です。また、給食がある施設であれば給食費なども支払う必要があります。
②民間企業が行っている私立の療育施設
市町村といった自治体が運営しているのとは違い、個人的に療育施設を経営している場合には、その企業や団体が独自で料金を設定しますので施設によって値段はバラバラです。しかし、公立の療育施設よりも預かる時間が長かったり、特化した療育があったり、バスで保育園や幼稚園に直接迎えにいってくれるなど様々なサービスがあります。両親が共働きであっても、きちんと療育施設まで送り迎えしてくれるとなると、値段は高くなってもライフスタイルにあって便利なケースもあります。受ける療育内容やプログラムによって料金に差はありますが、約5000円~3万円程度です。
③病院などで医療行為として行うことが出来る施設
療育は病院のリハビリテーション科などで受けることも出来ます。この場合には、乳幼児医療証が必要になります。乳幼児医療証は医療費を自治体が負担してくれる制度で、病院で受ける療育は医療行為として受けることになりますので、乳幼児医療証を呈示することで自己負担額を減らすことが出来ます。自己負担額は自治体によって異なりますが、無料かもしくは500円~1000円程度になります。乳幼児医療証を使用できる年齢の間はこの値段ですが、対象から外れた場合には健康保険証により3割負担になります。しかし、自立支援制度が適用されたら1割負担になりますので自己負担額を減らすことが出来ます。
このように、療育施設を利用するにはいくつかの方法があります。療育内容や料金、施設の近さなど、優先順位をつけて考えていくことが大切です。
◇療育する時間や回数は?
療育を利用する回数や時間ですが、これもその子の特性に応じた指導案がありますので、時間や回数は個人差があります。週1回や隔週に1回が多く、他には月1回や週2回というように分かれていきます。曜日は一般的に固定制になっており、変動したり急に時間が空いたから療育に行こう、という風には出来ない施設が多いです。ライフスタイルとその子に必要な療育内容、時間を併せて検討し提案してくれます。
1回の療育の時間ですが、45分~1時間という施設が多くなります。しかし、その子の特性に応じて時間を短くしたり、切り替えやすくしたりと工夫してくれますので、指導案の時に時間なども相談してみましょう。
6、まとめ
発達障害の子どもを持つ家庭になくてはならない『療育』。療育と聞くと発達障害の子の支援のみというイメージが強いですが、実際には障害の特性に悩む家族や親へのフォローもとても手厚く、親子ともに心の安定を図り成長を促すことが出来ます。療育を受けることに抵抗がある人もいるかもしれませんが、療育によって得られるメリットは多くあります。療育を検討している方や、発達障害の特性で悩んでいる人は、是非検討してみてください。