知的遅れがないために、一見障害と認識してもらうことが出来ず『わがままな子』として周りから距離を取られたり、理解してもらえないことが多いアスペルガー症候群の子供達。コミュニケーションを上手くとることが出来ないために、友達関係で悩むことも多くなります。今回はアスペルガー症候群の子供達と一般の子供達がお互いに分かち合い、楽しく生活を送るために教師や周りの大人がすべきサポートについて詳しく解説します。
目次
そもそもアスペルガー症候群とはどんな障害?
アスペルガー症候群という言葉を聞いたことがありますか?アスペルガー症候群は子供だけでなく大人になってからも診断されることが多くある障害で、今は自閉症スペクトラムの1つとして含まれています。
4000人に1人程度の発生率と言われていますが、アスペルガー症候群といっても様々な特徴がある人が多くいますので、実際にはもっと多くの人々がいると考えられます。
アスペルガー症候群は知的な遅れは目立たないものの、コミュニケーションが苦手で社会性が一般の人よりも低い人が多く、学校生活でも友達関係に不安を抱えてしまうことが多い障害です。アスペルガー症候群の人の感じ方や考え方、行動について理解することで相手の立場になって考えることが出来、双方が暮らしやすくなることが期待出来ます。
アスペルガー症候群の人を介助する時のポイント5点
アスペルガー症候群について学ぶことは大切ですが、実際にはどのような手助けをすればよいのでしょうか?
アスペルガー症候群の人を手助けする時の5つのポイントを紹介します。
【①:予定などは前もって伝えておく】
アスペルガー症候群の人は初めて行く場所や初めてする活動について、とても不安に感じてしまいます。ですので、初めて行うことや予定については最初にどんなことをするのかを説明しておくと安心して取り組むことが出来ます。紙にあらかじめ予定や行く場所、する内容などを伝えておくことで、パニックにならずに心の準備をして行動に移すことが出来るでしょう。
【②:質問は具体的にすることでコミュニケーションを助けることが出来る】
アスペルガー症候群の人の特徴として、コミュニケーションが上手くとることが出来ないということがあります。コミュニケーションは学生生活だけでなく社会に出ても必要不可欠な能力です。しかし、自分からコミュニケーションを取ることが難しいので、まずは周りの人が会話を楽しめるように工夫していくことが大切です。
私たちは誰かに教えられることはなく、相手の表情や目線、声色を通して気持ちを読み取りますが、アスペルガー症候群の人にとっては、顔や声色などだけで相手の気持ちを考えるのは難しくなります。ですので、会話をする時にも曖昧な表現をしてしまうと混乱してしまいます。『今日はどうする?』と聞いたとしても何がどうなのか、何を質問されているのかがわかりません。ですので、『今日はどこへ行く?』と具体的に質問するのが良いでしょう。
体調をうかがう時にも『どうしたの?』ではなく『お腹が痛い?頭が痛い?』と簡単な言い方にするとわかりやすくなります。たくさん意味がある言葉や、曖昧な表現はしないで、答えやすい表現で伝えてあげることで、アスペルガー症候群の人にとっても会話を楽しむことができコミュニケーションを図ることが出来ます。
【③:集中出来るように環境に配慮する】
アスペルガー症候群の人は感覚が過敏な人が多く、人の話声や雑音を苦手と感じたり、大きな音に対して強い恐怖心を持つ人もいます。中には窓から入る光が気になったり、周りに人がいると集中出来ないなど個性も様々になりますので、その人にあった環境を作ってあげることが大切です。もちろん、アスペルガー症候群の人であっても音に関しては何も気にならないものの、視覚が敏感になっている人もいますので、個人差は非常に大きいので型にはめて考えないようにしましょう。
また、アスペルガー症候群の人は気持ちが高ぶってしまったりパニックになってしまった時に、気持ちを抑えられる場所を準備しておくことも必要です。授業を受けていてもヒートアップしてしまった時のために、保健室や静かな個室でいったん気持ちを落ち着かせて1人になれる環境があることを伝えておくと、自分でコントロールすることが出来るようになります。
【④:ゆっくりと優しい声で話す】
先ほど紹介したように、アスペルガー症候群の人は大きな声や音に敏感に反応することがあります。私たちはそれほど気にならない声であっても、アスペルガー症候群の人にとっては驚いたり怖がってしまうことがあります。
はっきりとした言葉で伝えることは大切ですが、話す時にはゆっくりと優し声で言葉掛けするようにしましょう。大きな声で話されると、怒られているのではないかと怖く感じてしまう場合も多いので、笑顔で話すこともポイントです。
【⑤:自信をつけるように認めていく】
アスペルガー症候群の人は知的な遅れがないものの、コミュニケーションを図るのが苦手な場合が多く、どうしても他の人や子供達から距離を置かれてしまうことがあります。それを年齢が上がるにつれて理解するようになり『自分は他の人とは違う』『どうして避けられているのか』と悩む人が多くなっていきます。自分では周りの人と仲良くしたいと思っているのに、どうしてもうまくコミュニケーションを図ることが出来ないので、そのもどかしさに悩み苦しんでしまいます。周りからの理解は大切ですが、アスペルガー症候群の人が自信をもって生活を送ることが出来ることは非常に大切です。
そのためには、何度も褒めて自信を持てるように配慮するようにしましょう。『どうして周りと一緒に出来ないの』『何度言ったらわかるの』と否定的な言い方をされていると、どんどん自己肯定感を失っていき、学校へ行くことが嫌になってしまったり自分の殻に閉じこもってしまう可能性もあります。
誰にでも苦手なことはありますが、アスペルガー症候群の人にとってはコミュニケーションを図ることが出来づらいので、小さなことでも褒めていくことで自己肯定感を育むようにしましょう。
【対応】授業に集中しない場合には環境だけでなく、授業内容に工夫を
アスペルガー症候群の人は興味のないことを長時間聞いていることが難しく、好きな授業であればずっと座っていられますが、あまり得意ではない科目の場合には立ち歩いてしまったり、教室から出て行ってしまうことがあります。
特に長々と話や言葉が続いている国語などは苦手とする人が多く、たくさんの言葉の意味を把握しにくく苦痛に感じてしまうことが多くなります。
ですので、授業を受ける時には教師は前もって集中して聞くことが出来るように、工夫をしていくことが大切です。アスペルガー症候群の人の場合には、説明を耳で長く聞くことよりも、目で判別出来たり認識できるもののほうが得意な傾向にありますので、授業の内容を絵にしてわかりやすくしたり、黒板に何ページを読むのかなど先に書いておくようにすると、授業にも集中しやすくなります。
また、授業がわからなくなってくると誰かに話しかけたくなり、話しかけたくなるとそうしないと気が済まなくなってしまいます。そうすると、周りの子供も授業に集中出来なくなりますので、周りの子供達には話しかけられても無視するように伝えましょう。一見、無視をすることは心が痛むかもしれませんが、きちんと授業中は話をしないで聞くということをきっぱりと伝えることも大切です。
様々な特徴があるアスペルガー症候群であるため、一概にこのような対応で集中出来るとは限りませんが、全ての子供達がきちんと授業を聞けるように配慮しつつ、一人ひとりのペースにあった授業方を考えていくようにしましょう。
【対応】パニックにならないために前もって流れや行うことを確認しておこう
こだわりが強いアスペルガー症候群の人は、1つのことに集中しだすと時間を忘れて取り組んでしまいます。しかし、学校では授業の移動もあれば、給食や掃除の時間もあります。そういった時間を区切られて規律ある生活を送ることを学ぶ場でもありますので、好きなことを延々としているのではなく、自分で時間に合わせてしたい行動や気持ちをコントロールしていかなければなりません。アスペルガー症候群の人にとっては、好きなことをしだすと止まらないので、急に『次は〇〇だよ。移動しないといけないよ』と言われても、ストップして行動に移すことが難しくなります。
そういった場合には、まず決まってる時間の10分前程度に『〇時になったら掃除だよ』と伝えて心を準備する時間を持てるようにしましょう。きちんと時間を伝えていくことで、いざ移動しなければならない場合にも予定に入っていた内容だと、スムーズに行動へ移すことが出来ます。
また、曖昧な言葉や漠然とした言葉も理解しづらくなりますので、『そうじをしよう』と伝えても、掃除が何をするのか、自分は何をすべきなのかがわからないことがあります。ほうきや雑巾かけなど様々な意味を持つ掃除という言葉ではなく『〇〇くん(ちゃん)は雑巾かけをするから雑巾を絞ってきてね』とわかりやすく具体的に伝えていきましょう。あらかじめ掃除箇所や役割が決まっている場合には、紙に『雑巾を絞り教室の床をまっすぐ拭く』と簡潔に書いておくと、自分で確認して活動へ活かすことが出来ます。わかりやすく伝えることに加えて、予定などが変更あった場合にもかならず予定表に変更点を書き込むようにしましょう。
【対応】子供同士のコミュニケーションの取り方はしっかりと一緒になって考えよう
私たちは相手の顔を見て感情を知ろうとしますが、アスペルガー症候群の人からすると嫌がっているのか、 辛い思いをしているのかを理解しづらいという特徴があります。ですので、つい気にしている悩みについてストレートに言ってしまい相手を傷つけてしまうことがあります。アスペルガー症候群の人にとっては、悪気があって言っているのではなく、思ったことを素直に伝えているだけなのですが、相手は非常に傷ついてしまいます。そんな時には、子ども同士で嫌だったことを伝えるようにします。『ひどい!』と言っても何がひどいのかはアスペルガー症候群の人にとってはわからないので『〇〇は言わないでね』とはっきり伝えるようにしましょう。伝える時ははっきり伝えつつも、穏やかに話すこともポイントです。怒った口調で責め立てるように話しても、アスペルガー症候群の人には本当に伝えたい事は伝わらず怖かったという印象が残ってしまいます。傷ついたことや相手が嫌な気持ちになったことは、伝えていくことはとても大切です。今後のコミュニケーションや社会性を育むためにも、子供同士で解決する力や相手が嫌な気持ちになることはどんなことかを考える力を培っていくようにしましょう。そのために、一度クラス全体で相手に言って良い言葉などを確認し合う時間を設けていくなど、ゆっくりとお互いに理解しあう時間を得るようにします。
社会性や相手の立場に立って考えることは、アスペルガー症候群の人だけでなく全ての人にとって大切です。小さい時から、相手の気持ちに立つことを考えられるように話し合いをしたり、障害について理解することが大切です。
【対応】グループ活動や課外活動はペアを作って行動するようにしよう
小学校や中学校では課外授業が増えていき、学校の外へ子供達で出かけることもあります。引率の教師はいるものの、主体は子供達になりますので子供達で活動をしていくためには、アスペルガー症候群の子供の特徴をしっかりと子供達同士でも理解しておくことが大切です。課外授業は学校内だけでないので、多くの危険が想定されます。ですので、事故や怪我が発生しないように事前に準備をしていきアスペルガー症候群の子供達もしっかりと活動出来るように配慮していかなければなりません。
まず、屋外でグループ活動がある場合にはアスペルガー症候群の子と一緒に行動を共にするペアを決めましょう。アスペルガー症候群の子供にとっては初めての場所や集団行動に不安な気持ちを抱えてしまいますので、安心できるペアの子供がいると落ち着いて参加しやすくなります。また、授業で使う道順を確認しておくことも大切です。いつも使う道などであれば、違う道を通ることに強い抵抗を示す場合がありますので、今日のルートはこの道だと地図で一緒に確認しておきましょう。
また不安が多い屋外授業の場合、最初に怖い、不安だという印象がついてしまうと次からも屋外の授業を参加することを嫌がってしまう可能性がありますので、『地図を描いてもらう』『学習することに関して絵をかいてもらう』などアスペルガー症候群の子供が得意なことを屋外授業で活かせるようにすると、課外授業やグループ活動は楽しいものだと認識出来るようになります。
【対応】ルールある遊びをするには事前準備が大切
サッカーやドッジボールなどルールが決まっている遊びも、アスペルガー症候群の子供にとっては難しくなります。敵や味方という明確なチーム戦になる遊びは、ルールを理解していないと友達からの非難も多くなりアスペルガー症候群の子供にとっても一緒に遊びたいのに、出来ないという心の葛藤が起きてしまいます。
ルールのある遊びは、最初にそのルールをアスペルガー症候群の子供にしっかりと伝えることが大切です。目に見えないルールを言葉で伝えても理解しづらいので、絵に書いて説明していきましょう。絵に表すことで、視覚としてとらえルールを理解しやすくなります。しかし、実際ルールを理解してもゲームになるとうまく出来ないことがありますので、そんな時には簡潔な言葉で伝えてあげましょう。『敵にボールを投げて』といっても敵がだれかわかりにくくなりますので『〇〇くんにボールを投げて』と伝えると、落ち着いて行動に移すことが出来ます。
サッカーのように手を使ったらいけない、オフサイドがあるなど多くのルールがある場合には、全てを覚えることは難しいのでルールを予め簡単なものにするのも1つの方法です。アスペルガー症候群の子供も、そうでない子供も一緒になって楽しめるように工夫していくことが大切です。
まとめ
一見周りと何も変わりなく見えるアスペルガー症候群ですが、実際にはコミュニケーションを図ることが難しく友達関係で悩むことが多くなります。障害ということに気が付いてもらえず、友達関係が上手くいかなかったりいじめの対象として見られていることも少なくありません。子供達から見ても障害があることはわかりにくいので、まずどんな特徴があるのかを伝えていきどのようにサポートしていけば良いのかを一緒になって考えることが大切です。
アスペルガー症候群の人はこだわりが強かったり、社会性が低いと言われることが多いですが、そうではない人も多くなりますので、あくまでも今回説明した介助方法や対応例については、1つの方法として認識し実践していくようにしましょう。
一般の子供とアスペルガー症候群の子供が互いに理解しあい、共に過ごす上で楽しい学生生活を送るためにも教師や周りの大人は、双方の架け橋になることが求められています。