目次
1、発達検査には様々な検査方法がある
発達障害は、専門機関や医療機関で様々な検査を行い総合的に判断されます。その総合的な判断の中でも、発達に関して大きなウェイトを占めているのが『発達検査』です。発達検査は名前の通り、その子どもの発達がどの程度であるかを示すための検査で、発達障害の確定診断の際に1つの参考とされます。
発達検査だけで、発達障害の確定診断をするものではありませんが、発達検査をすることで、その子の特性を知ることが出来、療育を行う際にどのような支援や指導、配慮を行っていけばよいかということを考えることが出来ます。しかし、発達検査と言っても実はたくさんの種類があり、それぞれの専門施設によって検査方法は異なります。
発達検査といっても、それぞれの検査方法によって評価方法や特性の表現方法が異なってきますので、もし行いたい発達検査がある場合には、医療機関や専門機関に事前に問い合わせておくことが必要です。
先ほど紹介したように、発達検査にはたくさんの種類があります。
中でも代表的な発達検査が以下になります。
・新版K式発達検査
・乳幼児精神発達診断法
・日本版Bayley-III乳幼児検査
・ブラゼルトン新生児行動評価法
・ASQ-3
・KIDS乳幼児発達スケール
・日本版デンバー式発達スクリーニング検査等
では、これらの発達検査について詳しく見ていきましょう。
新版K式発達検査
現在、発達検査として最も使用されているのが『新版K式発達検査』です。新版K式発達検査は、1951年に京都市児童院で開発された発達検査で、発達の偏りや凹凸から精神面に関するまで、多角的にとらえられることが出来るように作られており、保育園や発達障害の専門機関など多くの場所で活用されています。
新版K式発達検査では、発達の偏りに関して『姿勢、運動(P-M)』、『認知・適応(C-A)』、『言語・社会(L-S)』の3領域で評価します。しかし、3歳以上であれば『認知・適応』と『言語・社会』の面に重きを置いていきます。
新版K式発達検査では、検査をする時に子どもが自然と手にとりやすいおもちゃや積み木などが活用されます。このように、親しみやすい検査用具を使うことで、子どもが本来の自然な姿のまま検査を行うことが出来、子どもの本質を見抜き観察することが出来るようになります。新版K式発達検査の検査中は、子どもの行動だけでなく発する言葉や表情、感情表現、といった面も観察し総合的に判断します。
【検査時間】:約15分~60分
【検査形式】:個別検査
乳幼児精神発達診断法
乳幼児精神発達診断法も、発達検査ではポピュラーな検査で、多くの医療機関や専門機関で活用されています。乳幼児精神発達診断法では、『運動』『探索』『社会』『生活習慣』『言語』の5つの領域で構成されており、年齢に対して発達がどの程度しているかを評価します。
新版K式発達検査と評価する内容にあまり変わりはありませんが、検査方法が新版K式発達検査と異なり、面接官と保護者の1対1のスタイルです。面接官が保護者に子どもの発達の様子や日常生活での様子を個別に面接し、気になる点を質問していきます。乳幼児精神発達診断法はその子の体調や状態に検査結果が左右されることが少なく、普段の生活の様子に基づいて障害の程度や発達状況を判断することが出来るというのが大きなメリットです。
行動観察では、初めての場所や雰囲気だとどうしても緊張してしまって自然な様子を知ることができませんが、乳幼児精神発達診断法だと面接になりますので、どのような環境であっても検査が影響されることはありません。検査を行った後、5領域について査定された結果を発達輪郭表にプロフィールとして描かれます。
乳幼児精神発達診断法には2種類の検査があり『津守・稲毛式乳幼児精神発達診断法』と『遠城寺式乳幼児精神発達診断法』があります。
それぞれ、検査の意味は同じですが、評価の方法が異なり、津守・稲毛式乳幼児精神発達診断法の場合には『運動』『探索』『社会』『生活習慣』『言語』の5領域438の質問から構成されているのに対して、遠城寺式乳幼児精神発達診断法の場合には『運動』『社会性』『理解・言語』の3分野で6領域の質問から構成されています。
どちらも0歳から検査を受けることが可能ですが、津守・稲毛式乳幼児精神発達診断法は、生後1ヶ月からしか検査を受けることができないので注意が必要です。
【検査時間】:約15分
【検査形式】:個別面接
日本版Bayley-III乳幼児検査
発達検査の1つである日本版Bayley-III乳幼児検査は、アメリカで開発された乳幼児検査であるBayley-IIIに基づいて作られています。Bayley-IIIは、アメリカだけでなく世界中で活用されている発達検査で、子どもの発達の遅れや偏りを客観的に評価することができ、発達の程度を知ると共に療育のプログラムを作成する再に参考にされます。『認知』『言語』『運動』の3領域が個別検査で行い、社会情動や適応行動に関しては保護者へ質問、さらにスクリーニング検査も行い、総合的かつ客観的に判断します。
【検査時間】:約50分~90分
【検査形式】:個別検査
ブラゼルトン新生児行動評価法
多くの発達検査の対象年齢が新生児から乳幼児までの幅があるのに対して、ブラゼルトン新生児行動評価法は、新生児のみの発達検査になります。アメリカの小児医学者のブラゼルトン博士が1973年に開発したブラゼルトン新生児行動評価法は、光、ガラガラといった外部刺激、環境に対する反応の速さ、強さ、注意力がどの程度持続するのかという点と、適応能力や精神の安定度を検査し、新生児の発達を予測します。35項目の行動評価と18項目の神経学的評価から構成されています。ブラゼルトン新生児行動評価法は子どもの発達を『正常』『異常』と判断するのではなく、行動評価を知ることで親子の関係性を育むためのものです。
【検査時間】:記載なし
【検査形式】:記載なし
ASQ-3
総合的な発達検査が多い中で、ASQ-3は発達障害の中でも自閉症スクリーニングテストとして海外で主流になっています。ASQ-3は自閉症スペクトラムの基本的な特性である①対人相互作用②コミュニケーション③常同的・反復的な行動について40項目の質問からなっており、細かい障害の検出をする点ではとても優れた発達検査です。現在は自閉症スペクトラムとして含まれているアスペルガー症候群や広汎性発達障害との区別をつけることも可能になります。しかし、ASQ-3で自閉症の可能性が高いからといって自閉症が確定するのではありません。ASQ-3の検査結果を元にそれぞれの生育歴や行動などをふまえた上で、専門的な医師が自閉症かどうかを判断します。対象年齢は4歳から6歳になりますが、4歳~5歳と6歳では質問内容が異なっているのでより年齢に応じた検査を行うことができます。
【検査時間】:約10分~15分
【検査形式】:個別検査
KIDS乳幼児発達スケール
KIDS乳幼児発達スケールは、1989年に全国38都道府県の乳幼児約6,000名によって標準化された新しい発達検査です。15分という短い検査で、子どもの発達を評価することができると共に、領域別評価の示されない他の知能検査の補助として行うことができます。KIDS乳幼児発達スケールは、『運動』『操作』『理解言語』『表出言語』『概念』『対こども社会性』『対成人社会性』『しつけ』『食事』の9領域の質問を保護者が○×で答えることで検査します。子どもの自然な行動から、発達の偏りや度合いなどを調べることができます。
【検査時間】:約10分~15分
【検査形式】:個別検査
日本版デンバー式発達スクリーニング検査
日本版デンバー式発達スクリーニング検査は、アメリカで作られたデンバー式発達スクリーニング検査の日本版になります。日本版デンバー式発達スクリーニング検査では、『微細運動―適応』『個人―社会』『言語』『粗大運動』の4領域104項目の質問で、発達について総合的に捉えるためのスクリーニング検査です。この評価は一見何も障害がないように見える子どもや、普通に見える子どもに対して、発達的に障害がある可能性がある子どもを早期に発見し、療育やサポートに活かしていくことが目的です。日本版デンバー式発達スクリーニング検査は達成率によって評価が分かれており、達成率が25%、50%、75%、90%の4段階に区分して示されます。
【検査時間】:約20分
【検査形式】:個別検査、行動観察
このように、発達検査といってもたくさんの種類があり、それぞれに検査方法や検査時間、評価の方法が異なってきます。基本的にはどの発達検査も、その子の特性を早期に発見することで療育でのプログラムの作成や、サポートの方法、親子の関係性を高めることが目的です。それぞれの施設で行われる発達検査は異なりますので、気になる発達検査があれば実施している施設を探したり、問い合わせてみるようにしましょう。
2,発達検査を実施する際の費用は?
子どもの発達の度合いを調べたり、偏りがないかを早期発見する可能性が高い発達検査ですが、実際検査するにあたってどのくらいの費用がかかってくるのでしょうか?
発達検査は、児童発達支援センターや保健センターで受けた場合には、費用はかからないことが多くなります。発達検査は専門的な医療機関で行うことで、発達障害の診断の参考になりますが、それぞれの発達検査は施設によって異なります。そのため、指定している発達検査以外を希望するのであれば、費用は自費負担になることがあります。詳しい費用や実施している発達検査に関しては、自治体の窓口や児童発達支援センターに直接相談することが大切です。
3、知能検査と発達検査の違いとは
発達障害の診断をする際に、発達検査と一緒に知能検査を行うこともあります。発達の遅れや凹凸だけでなく、知的な遅れがないかも調べていくことで、子どもの発達や特性を様々な視点からとらえるという目的があります。
知能検査をするとなると、知的障害の可能性があるからなのではと思うかもしれませんが、知的障害の疑いが少なくても知能検査を行うことは多くあります。専門的な医師が発達障害の確定診断を行う際の参考にしたり、特性を知り学習面でサポートをすることで自信に繋げられることもありますので、どのようなプログラムが最適かという方向性を知るきっかけになります。では知能検査と発達検査は何が違うのでしょうか?
発達検査と知能検査は似ているように感じますが、実際には全く異なることを知るための検査です。大きな目的とすると、発達検査は子どもの発達の程度を調べる検査で、知能検査は知的な遅れがないかを調べることになります。
【発達検査】
発達検査とはどの程度の発達をしているのか(出来ることと出来ないことの把握)、苦手なことや得意なことといった特性を知るための検査です。発達検査は発達障害の診断の1つの参考基準になりますが、発達検査のみで発達障害の確定診断を行うことは出来ません。発達検査に臨床診断や行動なども加味され、専門医が総合的に発達障害かどうかを判断します。発達検査を行うことで、その子の特性を知ることが出来ますので、療育の進め方やどういったサポートが必要かを考える基準にもなります。
【知能検査】
発達障害の確定診断に向けての診断基準の1つとなるのが知能検査です。知能検査は名前の通り、認知の面を調べるのに特化しており、知的な遅れが見られるかどうかを検査します。知能検査と発達検査を行うことでその子にどんなサポートやトレーニングが必要かを判断することが出来るようになります。
発達障害の確定診断において知能検査の数値であるIQが高いから良い、低いからダメということではありません。発達検査と知能検査の両面から見た時に、その子にとって伸ばしてあげるべき場所と、将来的に困難な課題になる可能性がある特性を知ることが出来るのが最も大切なことです。
乳児期から検査することが出来る発達検査に比べて、知能検査は文章や図形を見て答える問題が多くなりますので、乳児期には検査することが出来ません。乳児期には、身体面、運動面など様々な側面の発達で差が大きく不完全であることが多いので、知的な面だけで判断することは難しくなります。ですので、乳児期の時の発達障害の診断の際には知能検査を行わないで、発達障害の診断を総合的に行っていき判断されます。知能検査は2歳以上が適用年齢になりますので、2歳以上でかつ知能検査が必要な場合に行います。発達障害の診断に必要な検査は専門家の判断により適切な検査を選出しますので、発達障害かもしれないと感じた場合には専門機関に相談することが大切です。
3、まとめ
発達障害の確定診断の際や、療育のプログラムを考えるときに必要になる発達検査。発達検査といっても様々な種類があります。その子の特性に応じて施設にどの発達検査を行っているかを相談してみましょう。
発達障害は発達検査だけで診断されるのではありません。発達検査に加えて生育歴や臨床検査、知能検査を行った上で、総合的に判断され決定されます。しかし、発達検査を行うことでその子が苦手な分野や、伸ばしていくべき部分を知ることができます。もし育てにくいと感じたり、気になることが多くあるのであれば、一度発達検査を行うためにも相談窓口に問い合わせてみることが大切です。